S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 育郎はそんなに口数の多い人間ではないが、料理の話になると途端に饒舌になる。

(ふふ。いつものおじいちゃんだ)

「そっか。よかった」

 育郎の元気そうな顔を見られて、和葉は胸を撫でおろした。
 声にはハリがあるし、顔色も悪くない。癌に侵されているなんて信じられないくらいだ。
 多少の無理をすれば一時退院することも可能だったが、また倒れたりしたら心配なので、柾樹とも相談して癌の手術までそのまま入院させてもらることにしたのだ。

 育郎が言う。

「そうそう。円城寺先生が手術は三週間後あたりでどうか?と言うんだが、和葉の都合はどうだ?」

 すごく悩んだけれど、育郎は嘘やごまかしが大嫌いな人間だから……大腸癌のことは、すべて正直に本人に伝えた。育郎は落ち込んだ顔など見せずに『和葉の花嫁姿を見るまでは死んでも死にきれないからな。癌になんか負けてたまるか』と笑ってくれた。

「私の都合はなんとでもするから大丈夫。先生の判断に任せよう」

(とうとう手術か……)

 和葉は不安を隠して、育郎に明るい笑顔を見せる。

「病気になんか負けたら承知しないからね、おじいちゃん」
「おうよ、任せとけ」

 店の状況などを報告して、最後に和葉は切り出した。

「あのね、おじいちゃん」
「うん?」
「実は……私、結婚しようかなと思っていて」
「ぶはっ」

 育郎は驚きのあまり飲んでいた緑茶を噴き出しそうになっている。
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