S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
「ご、ごめん。驚かせちゃって」

 和葉は慌てて立ちあがり、彼の背中をさする。

「け、結婚って……安吾とか? いや、そりゃ期待してなかったと言えば嘘に――」
「えぇ、どうして安吾くんが出てくるのよ?」

 安吾の名が出たことに和葉はびっくりしたが、育郎は育郎で和葉が否定したことが意外だったようだ。

「そりゃ、和葉の身近な男なんか安吾くらいしか……あいつじゃないなら誰なんだ?」

 育郎の疑問はもっともだ。和葉は消え入りそうな声で答える。

「その……円城寺先生?」

 なぜか疑問形になってしまった。育郎は目を白黒させている。

「ず、ずいぶん急だな」

 和葉の目が泳ぐ。育郎は嘘つきが大嫌いなのだ。その彼に嘘をつくのは心苦しいが、ここだけは絶対に正直には伝えられない。

(借金とおじいちゃんの治療費のため……なんて言ったら、激怒すること間違いなしだもん)

「おじいちゃんを助けてもらって、相談に乗ってもらっているうちに……私が恋しちゃって」

 嘘がバレるのではないかと、ヒヤヒヤしながら和葉は続ける。

「それで、先生も受け入れてくれて結婚しようと言ってくれたの」

 育郎は黙って、和葉の作り話を最後まで聞いてくれた。

「びっくりするよね、急にこんな話をして。おじいちゃんは反対?」

 彼は静かに、でもきっぱりと首を横に振った。

「前から言ってあっただろう。結婚は好きな男としろと。反対なんかしねぇよ」
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