S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 和葉は思いきり顔をしかめる。店を贔屓にしてくれて、和葉にもいつも親切な沙月があんなふうに貶められている場面は、できれば見たくなかったのだ。

(沙月さんのどこが不満なわけ? ちょっと、じゃないけど……大金持ちで、顔がいいからって……)

「――感じの悪い人」
「誰が?」

 ぽつりとこぼしたひとり言に思わぬ返事があって、和葉はギョッとする。振り返ると、そこにいたのは……たった今〝感じの悪い人〟だと思った沙月の縁談相手だった。
 彼はまさしく、感じの悪い笑みを浮かべて和葉に顔を近づけた。

「もしかして、俺のことか?」

(なんで彼がここにいるのよ? あ、化粧室か)

 客用の化粧室は厨房入口のすぐ横にある。
 和葉が質問に答えられないでいると、彼はクスクスと笑い出した。

「けど、老舗料亭の従業員が客のやり取りを盗み見てるのも、かなり悪趣味だよなぁ」

 どうやら、彼は和葉の存在に気がついていたらしい。
 これについては反論の余地もないので、和葉は素直に頭をさげた。

「大変、ご無礼をいたしました」
「まぁでも、ここの味は気に入ったよ。とくに焼物は絶品だった」
「お、恐れ入ります」

 今日の料理のなかでは、育郎も焼物の『鮑のうに焼き』が一番のオススメだと言っている。悔しいが、彼の舌は確かなようだ。

「……沙月さんも、うちの焼物はおいしいと、いつも褒めてくださいますから」
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