S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 つい口走ってしまってから、さすがに当てこすりが過ぎたかと和葉は慌てて口をつぐむ。
 彼は皮肉げに唇の端を持ちあげた。

「なるほど。常連に害をなす人間は二度と来るなとでも言いたそうだな。けど――」

 彼は手を伸ばし、和葉の顎をグイッとつかんだ。

「俺が誰か、知っているか? 円城寺柾樹、上客にしておいて損はない人間だと思うぞ」

 意地悪を楽しむような目つきで、柾樹は和葉を見おろしている。

「今ならまだ、許してやる。ほら、媚びを売ってみたらどうだ?」

 握り締めた和葉のこぶしが震える。

(――こ、ここまで最低な人には初めて会ってわ)

 仕事柄、上流階級の人間と接する機会は多い。身分にふさわしい内面を持つ、尊敬すべき人物はたくさんいる。沙月などはまさにそうだ。反面、どんなに立派な肩書きでも、中身はちょっと……という人間もやはり存在する。

(この人みたいにね!)

 目の前の男は、和葉がこれまで出会ってきたなかでも一、二を争うレベルで傲岸不遜だった。和葉はキッと柾樹をにらみつける。

「うちが売るのは、味と接客サービスだけです。媚びは売っておりません!」

 円城寺家がどういう存在かは、もちろん理解している。上客になってもらえたら店としても得るものは多いのだろう。だが――。

(おじいちゃんも私と同じことを言うはずよ。プライドを捨てたら、芙蓉が芙蓉じゃなくなるもの!)
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