S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 不本意だと言いたげな顔で彼をにらむけれど、本気でないことは柾樹も……そして和葉自身にもわかっていた。心のどこかで、彼にこうして抱き締めてもらうことを望んでいたのだろう。その証拠に、今、和葉はとても満たされていて幸せな気分だった。

(彼に恋はしない。そう決めていたけど……なら、この思いはなんと呼べばいいんだろう)

『俺は和葉を愛するし、それ以上の重みで、お前も俺を愛するようになる』

 彼はいつか言った言葉を実現するかのように、和葉をたっぷりと甘やかし、その心を溶かしていく。

(だけど、あの言葉をそのまま信じていいのか……時々すごく不安になる)

 和葉の隣にいるときの彼は、暴君だけど憎めなくて……優しいところもかわいいところたくさんある、一緒にいると楽しくて仕方のない旦那さまだ。
 でも、それが彼のほんの一面でしかないことも理解している。
 有能な外科医で、グローバルな医療財閥でもある円城寺グループの後継者。才色兼備なご令嬢の久野沙月ではなく妻に和葉を選んだのには、合理的な理由があったはずだ。

(私を大事にして、愛してくれるのも……ビジネスとしての決断なんじゃないかって考えてしまう)

 そして、そんなふうに考えてしてしまう弱気な自分が情けなかった。

(契約妻だけど、少しでも彼の役に立てるようになったら自信が持てるかな?)

「弁当?」
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