S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 唐揚げ、ほうれん草のバター炒め、きんぴらごぼうに自慢の玉子焼き。やや子どもっぽいラインナップかもしれないが、初日なので王道で攻めてみた。ミニトマトやフルーツで彩りにも気を配った。

「うん、ばっちり!」

 余裕を持って、彼の出勤時予定時刻の三十分前には完成させた。ちょうどそのタイミングで、柾樹がリビングに顔を出した。

「あ、柾樹さん。約束の――」

 和葉の言葉を遮って柾樹は短く告げる。

「悪い! 担当患者の容体が急変したからもう出る」

 和葉が「いってらっしゃい」を言い終わるより先に彼はバタバタと部屋を出ていってしまった。和葉は作り終えたばかりの弁当に視線を落とす。

(渡せなかったな……)

 少し迷ったけれど、芙蓉に出る前に円城寺メディカルセンターに寄って届けることに決めた。少し前まで育郎が入院していたこともあって、彼の所属する医局の場所などは把握している。

 病院の長い廊下を歩いていると、育郎が世話になった顔見知りの女性看護師が声をかけてくれた。

「あら、望月さんの?」
「お久しぶりです。入院中は祖父がお世話になりました」

 和葉は彼女に頭をさげる。

「今日は検査かなにかで?」
「いえ。今日は……その……円城寺先生に用があって」

 彼女は困惑げな表情で言う。

「お約束は取っていますか? 個人的な訪問だと、ちょっとお受けすることは……」
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