はじめての さよなら… 《plot story ver.》
第6話 お互い若かったんだ
高校を卒業して、しばらくした時だった。
一通の手紙を受け取った。美香からだった。
いつものように、急いで封を切ってみると、そこには信じられない文字が並んでいた。
『先輩、終わりにしましょう』
その後のことは、正直よく覚えていない。いや、記憶の中から抹消したと言っていい。
何が悪かったのか、聞こうとしても答えはなかった。
考えてみれば、彼女にそこまで言わせたのだから、もう修正できるポイントは過ぎてしまっていたのだが。
これからの全てを失った気分だった。
何のために、毎日を過ごしていけばいいのか。生きていく目標を無くした。
あまりのショックに食事もほとんどのどを通らなくなり、体重も20キロ以上落ちた。
そのうち、彼女の心変わりがずいぶん前から起こっていたことを、彼女の友人や後輩から伝え聞いた。
あのバレンタインの日も、別の男子に前日に渡していたという。俺が渡した品物を保管しているという後輩もいた。
俺は彼に申し訳ないと思いつつ、それらの処分をお願いした。手元に戻ってきたところで、美香が帰ってくるわけではない。
それを知っても怒りは起きなかった。自分が情けなかった。周囲はいろいろと美香の性格だからと慰めてくれたが、彼女の気持ちを引き留められなかったことは自分の努力不足だ。
消えてしまいたい……。
いつしか、そんな事ばかりを考えるようになった。
「そんなことになっていたんですね……」
「もう、あんなことにはなりたくねぇや」
痛み止めの説明もそこそこに、美香はゆっくりとレジを片づけていた。
「すみませんでした……」
「もう過去の話だ。それに、現に俺は生きてるだろ?」
「はい……」
そんな俺を救ったのは、たった1通のはがきだった。
当時、受験勉強をしながら、深夜のラジオをよく聞いていた。
その内の1番組。30分の短い放送が週に1回。この番組を毎週欠かさず聞くようになっていた。
リスナーの悩みに直球勝負で答えてくれるその趣旨に共感していたし、受験生という立場の中で、やはり全国に同じような悩みを抱えている仲間がいる。これだけでもずいぶん救われた。
俺はその番組にこれまでのことを手紙に書いた。そして、自分が消えたいと思っていること。放送で取り上げられなくても構わない。けれど、こんなリスナーもいたってことを覚えていてくれたら……。そんな内容だったように覚える。
そんな手紙を送って、しばらく放送を聞いても、俺の手紙は紹介されることはなかった。
取り上げなくても構わないと書いたのだから当然のことだ。
そして、その翌日、1通の郵便物が届いていた。そのはがきには俺の名前と、そして、あのパーソナリティの名前が差出人として書いてあった。
『彼女と過ごした楽しい時間、大切な約束をしたこと、それは事実です。でも、その約束が途切れてしまったことで、全てを捨ててしまうのですか? 去る人をどんなに追いかけても振り向いてはくれません。振り返らせてやるって再び歩き出せば、道は見えてくるんじゃないかな?』
衝撃だった。『あらぁ、まだ泣いてますか?』との締めだったが、俺は実際に泣いていた。
でも、その涙はこれまでとは違っていた。
感謝の涙だった。たった1枚のはがき。これが俺を救った。