キミはひみつの王子様。─ようこそ、オオカミだらけの男子校へ─
というか、ほとんどの野郎どものペンケースに定規なんか入ってない。
「頼くんは持ってるかな!頼くん勝手に漁るよー、ごめんねー」
隣の席のよしみとして。
いつも消しゴム忘れたとか、シャー芯ないとか嘘を言って、わたしのものを借りてくる人。
思い出すだけでふふっと笑いながら、頼くんのペンケースを開ける。
「郡さん」
「ん?───っ!わっ!」
呼ばれて顔を上げると、まさかこんなにも近くに来ていたなんて。
琥珀くんがここまでの距離に来ることなんか、初めてだった。
「…これ、僕の定規」
「えっ、いいの!?」
「うん」
「ありがと!!すっごい助かった!!」
受け取って、残るマジックを探そうとしたとき。
琥珀くんの手がスッと、わたしの頬に伸びてきた。
「あ…っ、え、」
「……絵の具、ついてた」
それを取ってくれるような動きには感じられなかったから、数秒間は固まってしまって。
だって普通に、優しく、撫でてくれたものだったから。
「僕も手伝っていい?」
「……えっ、もっちろん!!」
どうして頬から手が離れないんだろう。
わたしの頬っぺたを包み込むように触れている手は、やっぱり動画で見たベースを弾く手と似ていた。
繊細で、白くて、綺麗で、長くて。