キミはひみつの王子様。─ようこそ、オオカミだらけの男子校へ─
「……僕のパーカー、大事にしてくれてる…?」
「───……」
最悪だと思った。
ここでそれを出してくるのは最悪だって。
彼のおかげでゆっくり、ひとつずつ、前を向けていたの。
もうパーカーなんか気にすることないくらい、思い返すこともしないくらい。
なのにどうして、あなた自らがそのときのわたしを呼び戻そうとしてくるの。
「っ…、なん、で…っ」
「……ごめん」
最初から、気づいていて。
最初から、知っていて。
そんなこと言ったら、ぜんぶ“あえて”になっちゃうじゃん。
“あえて”シュークリームを断って、“あえて”キャッチボールをしてくれて。
“あえて”わたしの気持ちを断った。
“あえて”朝のホームルームから来てくれるようになって、“あえて”郡さんって呼んでくる。
「なんで…っ、……なんでえ……っ」
もう、好きなひと、他にいるんだよ。
楽しい毎日を過ごしているよ。
すっごく優しい人だから、琥珀くんのことなんか考えもしないくらい。
ドキドキして、ワクワクして、頼くん頼くんって、毎日。