キミはひみつの王子様。─ようこそ、オオカミだらけの男子校へ─
ぱしっっ。
それはグローブ内にボールが綺麗に入った音。
「っ…!」
この、匂いは。
この爽やかな柑橘系は。
「こ、琥珀くん…!」
「…危なかった」
わたしの顔の前、手に付けたグローブでキャッチしてくれた隣の席の男の子。
しっかりジャージを着ている雰囲気から、まさかだけど練習に来てくれた……?
「キャッチボールくらいしかできないけど、僕」
「じゅっ、じゅーぶんだよ…!!えっ、わっ、あっ、ありがとうっ!!」
嘘みたいだ。
あの蘭 琥珀が、いちばん最初に参加してくれたクラスメイトだなんて。
今日も放課後のホームルームが終わったあと、いつものようにスマホを操作しながら帰っちゃったと思ってた。
そこに対して呼び止めることすら迷惑な気がして。
わたしはいつも、琥珀くんの背中ばかりを見る。
「俺ノーコンって有名だからっ、気をつけて琥珀くん!」
「……ピッチャー大丈夫かな」
「そこはもうねっ、逆に開き直ってるから!頑張るよ!任せてっ」
そんな背中ばかりを見ていた男の子と、今、向き合っていた。