輪廻〜親愛ヴァンパイア〜



嫌な予感がする。


その顔つきは甘く、誘われているよう。


まるで自分以外の誰かに体を制御されているかのように、一歩も動くことができない。



「ねぇ、君の血……
味見させてくれない?」


言いながら掌をぺろりと舐められ、ゾクリと体中に悪寒が走った。


罠と分かっていながらも香りに誘われ、自ら蜘蛛の手中に飛んでゆく蝶の如く。


気を、緩めそうになる。


バラの香りが鼻をつき、頭がくらくらする。


彼から漏れ出るフェロモンは、どれだけの女性を魅了するのだろうか。


きっと、人間にはない吸血鬼特有の能力か何かに違いない。



理性を保っていなければ、今すぐにでも自分から飛び込んでいってしまいそうな、そんな気にさせられる。


ギリリ、と奥歯を噛み締めていると……



「……っつ…ぅ」


掌を牙でなぞられたと思った瞬間、針に刺さったような痛みが走った。


小さな赤い球が浮かび、牙で切れたのだと悟る。


掌から細く流れた鮮血が、手首を伝い彼の舌に掬われた。


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