Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
その様子を視界に入れていると、だんだんモヤモヤする気持ちが大きくなってくる。

きっとこんな感じで今までもモテてきて、恋人がずっといたんだろうなぁと思った。

三上さんのこともあってちょうど女避けが欲しいタイミングだったからこそ、自分のことを好きにならない婚約者役が必要だったのだ。

本来はこの智くんの隣という場所は、私以外の誰かの場所なのである。

(それに昨夜分かっちゃった。経験が少ない私でも分かるくらい、智くんはうまかったと思う。つまり今までいろんな女性とそういうことしてきて、慣れてるんだろうなぁ‥‥)

なんだか居た堪れない気持ちになって、これ以上視界に入れたくなく、私は一人でそっとお店から出た。


しばらくすると、購入したグラスの入った手提げ袋とともに智くんが外に出てきた。

チラリと智くんの背後を見るが誰もおらず、一人のようだ。

「良かった、ここにいた。店内にいなくて探したよ。外は寒いのに何で中にいなかったの?」

「別に。ちょっと外に出たくなっただけだよ」

「本当に?」

「だって女性と話してたし、私がいると気を使わせて邪魔かなと思って」

思わずポロリと本音がこぼれ出た。

内心「しまった!」と思ったが、言ってしまったことは取り返しがつかない。

智くんは何を言われているのか分からないというように一瞬キョトンとした顔になったが、しばらくして意味が分かったのか目を細めて笑顔になる。

「もしかしてレジで話しかけられてたことを言ってる?」

「‥‥」

「あれならハッキリ断ったよ。婚約者と来てるからって。環菜が邪魔なわけないでしょ」

なんてことないというふうに言われ。

一度ポロリと漏れてしまったことにより、燻っていた私の気持ちは火がついたようで、私はさらに言い募る。

「今さらだけど、智くんは旅行先はここで良かったの?前に来たことあったんでしょ?」

「あるけどここで良かったよ。環菜と来てみたかったし。突然どうしたの?」

「前も女性と来たんでしょ?思い出もあっただろうし、良かったのかなって思って」

そう言うと、なぜか智くんはますます目を細める。

なにが面白いのかちょっとクスクス笑ってさえいる。

「なにが面白いの?」

「いや、だってさ、環菜が嫉妬するなんて珍しいから可愛くて」

「‥‥嫉妬!?そ、そんなつもりは‥‥!」
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