Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜

#21. 可愛い彼女(Side智行)

カルロヴィバリへの旅行で束の間を休暇を楽しむと、その後僕は仕事に忙殺される日々となった。

12月頭に日本で開催される国際会議に向けての事前準備が立て込み始めたのだ。

深夜に帰宅することも多く、家で環菜と顔を合わせる機会も減っていた。

ただ、情報収集のためにレセプションパーティーに参加することは増え、パートナー同伴のものは環菜にも協力してもらっている。

相変わらず完璧な振る舞いを見せる環菜は、出席している要人から信頼を得て、見事に社交をこなしていた。

ある時のレセプションパーティーでは、以前僕がいつもパートナーをお願いしていた商工会の元会長夫人と出会(でくわ)した。

彼女は好奇心に溢れた笑みを浮かべて僕たちに近づいてくると、環菜と熱心に日本語で会話をしていた。

環菜が飲み物を取りに席を外すと、今度は僕に目を向け、満足げな表情を浮かべる。

「彼女、とっても良い子じゃないの。容姿だけでなく、しっかり芯のある中身のある子ね。立ち振る舞いも素晴らしいし」

「ええ、そうですね」

「あなたもやっと真剣な相手を見つけたのね。なんだか私安心しちゃったわ」

毎回パートナーをお願いするたびに、この元会長夫人からは心配されていたのだ。

相手を紹介しようかとお節介を焼かれそうになったことも数知れずだった。

「真剣だって分かるんですか?」

「そりゃあ、あなたの態度を見ていればね。他の女性に向けるものと全然違うじゃないの。一目瞭然よ。あなたは物腰柔らかくてにこやかなのに、なんとなく人に興味がない感じがしたけど、彼女に対しては目線も仕草も甘々よ。自覚ないのかしら?」

そう言われ、そんなに態度に出てしまっているだろうかと驚いた。

第三者から見てそんなにバレてしまうほどなのは、隙になるから抑えなければなと思った。

「それにしても彼女、誰かに似てるのよね。見たことがあるような気がして。誰だったかしら?」

元会長夫人が最後にそうポツリとつぶやいたタイミングで、環菜が飲み物のグラスを持って戻ってきた。

環菜がこうやって自分で飲み物を取りに行くのは、おそらく以前襲われた時の影響だろう。

知らない間に睡眠薬を盛られていたことがあると話されたあの話は、今思い出しても相手に復讐してやりたいと腹が立つ。

最近では僕から渡すものは受け取ってくれるので、少しは心を許してくれているのだろうと嬉しく思っていた。
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