Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
ただ、まさかベッドの中でまで演じてくれるとは思わなかったから驚いたが。

ホテルのベッドはダブルにしたものの、別に最初から環菜を抱こうとは考えていなかった。

また拷問みたいな状態になるかもしれないが、あの時みたいに同じベッドで一緒に寝たいと思っていただけだ。

女性とホテルで2人きりなんてこれまでも何度も経験した状況だというのに、環菜がシャワーを浴びに行ってしまうと、妙に緊張した。

だから気を紛らわすために、ルームサービスでお酒を注文して飲んでいたのだが、バスルームから出てきた環菜はそれを見て、一口味見をするとさっさとベッドに行ってしまったのだ。

バスローブに身を包み、シャンプーの香りを漂わせた環菜の残り香だけがその場に残った。

(まぁそうだよね。演じている環菜にとっては別にそんな気はないだろうし。変に意識してる僕の方がどうかしてるな。僕もさっさとベッドに行こう)

グラスに残ったお酒を飲み干すと、環菜が眠っている反対側のベッドに滑り込む。

僕に背を向けて眠っているらしい環菜に、「もう寝た?」と一応声をかけてみると、まだ起きていたらしく返事があった。

抱きしめるくらいなら良いかと思い、背後から身体に腕を回して抱き寄せる。

すると環菜は一瞬身じろぎし、頭だけ動かしてこちらを振り返った。

目が合った瞬間に、「あぁダメだ」と後悔した。

やはり抱きしめるだけでは止められず、そのまま唇を奪った。

意外なことに環菜は全く抵抗を示さず、僕のキスに応じ、そのことがますます僕の火をつけた。

こうなればもう後には引けず、キスでは飽き足らずに環菜の上に覆い被さって首筋にキスをして赤い花を咲かせ、肌に這わせる手や唇はどんどん下へと向かっていく。

胸の膨らみに手を伸ばそうとした時、一瞬だけ理性が戻り、「止めるなら今だ」と思った。

ここを過ぎるともう本能のままに、僕は止められなくなるだろうと確信があった。

だから環菜に聞いたのだ。

「いい?」と。

さすがに抵抗されるだろうなと思っていたのだが、環菜は熱を浮かべた瞳で僕を見つめながら、小さく頷いたのだ。

それを合図に、そこからはもうただただ環菜を味わうように隅々まで指先と唇で触れ、白く滑らかな肌を堪能した。

環菜のタレ目がちな瞳はとろけるように潤み、ぷっくりとした唇からは甘い息と声が漏れ、僕を興奮させる。

正直なところ、こういう行為の経験は少なくない方だと思うが、こんなに気持ちを昂らせながら、自分から動き、相手を感じさせたいと行為に没頭したのは初めてだった。
 
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