Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
その日の夜は眠れなかった。

目を瞑ると、世の中の人々からの悪意を思い出して怖くて怖くてたまらない。

社長が言っていた風当たりの強さをまさに今実感するとともに、女優生命が終わるという言葉の意味を真に理解した。

(私はもう演じられないんだ‥‥。終わりなんだ‥‥)

これまで積み重ねてきたことが一瞬で崩れ去る瞬間だった。

砂で作ったお城が、風に吹かれてサラサラと崩れていくようだ。


こんな報道が3日程続くと、他に大きなニュースが飛び込んできたことを受け、人々の関心が移り、ようやく私の話題は鎮火してきた。

ずっと一人で悪意に晒されてきた私は、まともに食べれず、眠れずで心身がすっかり弱ってしまっていた。

毛布を頭から被り、ぐるぐる巻きになって部屋の片隅に隠れるようにして過ごしていたのだ。

誰も家にまではやってこないが、怖くて怖くて仕方がなかった。


真梨花から電話がかかってきたのは、そんな頃だった。

思わず着信にビクッと身を縮ませる。

相手を見て、社長の指示がすっ飛んでしまい、私は無意識に通話ボタンを押した。

「‥‥もしもし」

「亜希さんですかぁ〜?ふふふっ、私の言ってた通りになったでしょ?今どんな気分ですかぁ?」

「‥‥あなたなの?これを仕組んだのは」

「仕組んだなんて人聞きが悪いじゃないですかぁ。私は計画しただけですよぉ?協力してくれる人を探すの大変だったんですからぁ!」

真梨花は楽しそうに甲高く笑っている。

その声が私を刺激し、腹の底から低い声が出た。

「ふざけないで!」

「ふざけてないですよぉ。あんたが清純派ぶってるのが悪いんでしょ。いつもいつも社長や皆川さんに良くしてもらってお気に入りで。エコ贔屓されてるのがムカついてたのよ。もうあんたの女優生命はお・わ・り!ふふふふっ、ざまぁみろ」

「なっ‥‥」

「ちなみに、あの月9ドラマのヒロイン、代役で私に回ってきたからぁ。お気の毒様。もうあんたはお役御免なの〜。じゃあね、せいぜい苦しんでちょうだいねぇ?」

言いたいことをつらつらと話すと、真梨花は一方的に電話を切った。

こんなにも恨まれて、嫉妬されていたなんて思いもしなかった。

それに私がもっと早く違和感に気づいていれば‥‥。

事実を聞き、私は魂を抜かれたように目がうつろになり愕然としてしまったのだったーー。
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