Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
そんな仕事とレセプションパーティーをこなす忙しい日々はあっという間に過ぎていき、気付けば11月下旬となっていた。
来週には国際会議のために日本へ一時帰国することになっている。
2週間ほど滞在する予定だから、こちらに戻ってくるのはクリスマス前くらいだろう。
環菜ともしばらく会えなくなる。
僕がいない間にまた変な男に狙われないか心配だなと思った。
その日は久しぶりに仕事が早く終わったので、家で環菜と夕食を一緒に食べようと、足早に職場をあとにする。
トラムに乗り、なんとはなしに外を眺めていると、見知った姿が目に入った。
カフェでの仕事終わりであろう環菜だった。
しかし、すぐに環菜だけではないことにも気付く。
一緒にいるのは、30代後半くらいの知的な雰囲気のある日本人男性だった。
2人は立ったまま向かい合い、何かを言い合っている。
激しく口論と言う感じではないものの、なんとなく穏やかではない空気感で、珍しく環菜が感情的になっているようだった。
(あれは‥‥?ナンパされているという感じでもないし、なんとなく2人は知り合いのようだけど。もしかして環菜の昔の恋人‥‥?)
胸にザワザワとざわめきが起きる。
気になってトラムの中から2人の様子を目で追っていると、その場を去ろうとする環菜を止めるように男性の方が環菜の手首を掴む。
その制止も力一杯振り払うと、環菜は振り向きもしないでそのまま逃げるように去って行った。
男性はその場で立ち止まったまま、環菜の後ろ姿を目で追っている。
ちょうどトラムが停留所に留まり、家の最寄りの停留所ではなかったが、僕は思わず降車するとその男性に向かって歩き出す。
男性はさっきの場所でまだ立ち尽くしていて、僕はその後ろ姿に日本語で声をかけた。
「あの、すみません」
日本語が聞こえてきたことに驚いたのか、一瞬身体を震わせると、彼はこちらを振り向いた。
やはり知的な雰囲気のある整った顔立ちの男性で、物腰の柔らかそうな感じがした。
「え?僕でしょうか?すみません、僕はここに住んでいるわけではないので、道を聞かれても分からないんですが」
同じ日本人から道案内を頼まれると勘違いしたのだろう。
彼は困った顔を僕に向けた。
「いえ、道を伺いたかったわけではないんです。僕が声をかけたのは、先程一緒にいらっしゃった女性についてご質問したくて」
「アキですか?」
彼の言葉に一瞬眉をひそめる。
聞き慣れない呼び名で、一瞬誰のことかと思ったのだが、そういえば環菜の名字が秋月だったことを思い出す。
「‥‥アキ?ああ、秋月環菜だからアキなんですね。初めてその呼び方を聞きました。僕も環菜と知り合いなんですが、あなたはどのようなお知り合いなんですか?」
「え?‥‥環菜と知り合い?」
彼は驚くように僕の顔を凝視する。
なぜこんなに驚かれるのか不思議だった。
来週には国際会議のために日本へ一時帰国することになっている。
2週間ほど滞在する予定だから、こちらに戻ってくるのはクリスマス前くらいだろう。
環菜ともしばらく会えなくなる。
僕がいない間にまた変な男に狙われないか心配だなと思った。
その日は久しぶりに仕事が早く終わったので、家で環菜と夕食を一緒に食べようと、足早に職場をあとにする。
トラムに乗り、なんとはなしに外を眺めていると、見知った姿が目に入った。
カフェでの仕事終わりであろう環菜だった。
しかし、すぐに環菜だけではないことにも気付く。
一緒にいるのは、30代後半くらいの知的な雰囲気のある日本人男性だった。
2人は立ったまま向かい合い、何かを言い合っている。
激しく口論と言う感じではないものの、なんとなく穏やかではない空気感で、珍しく環菜が感情的になっているようだった。
(あれは‥‥?ナンパされているという感じでもないし、なんとなく2人は知り合いのようだけど。もしかして環菜の昔の恋人‥‥?)
胸にザワザワとざわめきが起きる。
気になってトラムの中から2人の様子を目で追っていると、その場を去ろうとする環菜を止めるように男性の方が環菜の手首を掴む。
その制止も力一杯振り払うと、環菜は振り向きもしないでそのまま逃げるように去って行った。
男性はその場で立ち止まったまま、環菜の後ろ姿を目で追っている。
ちょうどトラムが停留所に留まり、家の最寄りの停留所ではなかったが、僕は思わず降車するとその男性に向かって歩き出す。
男性はさっきの場所でまだ立ち尽くしていて、僕はその後ろ姿に日本語で声をかけた。
「あの、すみません」
日本語が聞こえてきたことに驚いたのか、一瞬身体を震わせると、彼はこちらを振り向いた。
やはり知的な雰囲気のある整った顔立ちの男性で、物腰の柔らかそうな感じがした。
「え?僕でしょうか?すみません、僕はここに住んでいるわけではないので、道を聞かれても分からないんですが」
同じ日本人から道案内を頼まれると勘違いしたのだろう。
彼は困った顔を僕に向けた。
「いえ、道を伺いたかったわけではないんです。僕が声をかけたのは、先程一緒にいらっしゃった女性についてご質問したくて」
「アキですか?」
彼の言葉に一瞬眉をひそめる。
聞き慣れない呼び名で、一瞬誰のことかと思ったのだが、そういえば環菜の名字が秋月だったことを思い出す。
「‥‥アキ?ああ、秋月環菜だからアキなんですね。初めてその呼び方を聞きました。僕も環菜と知り合いなんですが、あなたはどのようなお知り合いなんですか?」
「え?‥‥環菜と知り合い?」
彼は驚くように僕の顔を凝視する。
なぜこんなに驚かれるのか不思議だった。