Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「失礼ですが、あなたはこちらにお住まいの方なんですか?それも結構長くいらっしゃったり?」

「ええ、そうですね。もう4年目です。それがどうかしましたか?」

「なるほど。どうりで。いえ、失礼しました。アキ、いえ、環菜とは昔仕事を一緒にしていた時の知り合いです」

年齢的に職場が同じであれば、彼は上司にあたるはずだ。

なのに彼の口ぶりからは、環菜を部下として扱っていたような感じがしないことに違和感を覚える。

(上司と部下でないなら、取引先とか?それにしては親しい感じがするしな。いずれにしても、今まで会った人の中で日本にいた頃の環菜を一番知っていそうな人だし、聞き出してみるか。あの情緒不安定になっていた理由も分かるかもしれない)   


「仕事ですか。ちなみに、何のお仕事ですか?」

「‥‥環菜から聞いていらっしゃらないですか?それなら僕からはなんとも。申し訳ありませんが、本人に聞いてください」

すげなく口を閉ざされた。

なんというか、環菜同様にガードの堅い男性だ。

そのあとも探りを入れてみるものの、のらりくらりとかわされて、何も聞き出すことができなかった。

情報の取り扱いに長けたなかなかやり手の男だと、この人に対する評価を上向きに軌道修正させる。

「では、すみません。僕は飛行機の時間もありますので、そろそろ失礼させて頂きます。とりあえずアキが元気で良かったです。アキをよろしくお願いします」

なぜか彼から環菜をお願いされ、その男性は僕の前から去って行った。

(環菜に恋愛感情があるとかそういう感じではなかったな。まるで環菜の親か兄みたいな雰囲気だったけど。でも仕事関係って言ってたしなぁ)

声をかけて聞いてみたはいいが、大して情報も得られず、逆に分からないことが増えた気がした。

とりあえず帰って環菜に聞いてみるべきだなと考え、再びトラムに乗ると、僕は家へと急いだ。
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