Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
まさか皆川さんがプラハに来るなんて。

しかももう一度日本で一緒にやり直そうと言われるなんて‥‥。

皆川さんが私の演技力を高く評価してくれているのは嬉しいし、今も気にかけていてくれることには感謝している。

でも「日本」でもう一度やり直すというのは私の選択肢にないのだ。

もうあんな風に悪意に怯えたくないし、常に人目を気にした生活には戻れない。

それに‥‥智くんのいない生活を想像できなかったのだ。



しばらくすると、智くんも家に帰ってきた。

珍しく今日は帰宅が早い。

「おかえり!今日は早かったね。ごめん、今日はまだ夕食作ってなくて」

「ただいま。夕食のことは全然いいよ。実はテイクアウトで色々買って来たから、これ一緒に食べない?」

「え、本当に?それは助かるけどいいの?」

「環菜も今日は仕事だって言ってたから、まだ夕食作ってないかなって予想してたしね。環菜の分ももともと買って来たから」

なんて察しのいいことだろう。

私の分まであると言われ、それなら遠慮することないかと、お言葉に甘える。

私たちはテーブルにテイクアウトした夕食を並べて、一緒に食卓を囲み始めた。

食べ始めると、「そういえば‥‥」と智くんがおもむろに口を開いた。

「実はさっき帰り道に偶然街で環菜を見かけたんだけど、日本人の男性と一緒だったよね。あれだれ?」

まさか見られていたとは思わず、心臓が大きく飛び跳ねる。

皆川さんと一緒にいるところを見られるのは問題ないけど、会話の内容は聞かれたくなかったのだ。

「あ、まさか見られてたなんてビックリ!えっと、昔の知り合いだよ。ちなみに何話してるか聞こえた?」

「トラムの中から見かけただけだから、会話の内容までは聞こえなかったけど。何話してたの?聞かれたらまずい話?」

「ううん、そんなことないよ。ただ偶然だね〜、元気〜?みたいな世間話してただけだから」

「そうなの?なんかちょっと揉めてるみたいにも見えたけど」

「あ、本当?そんなふうに見えた?ちょっと昔のことを思い出してお互い感情的になっちゃったのかもね!あ、そうだ!そういえば、智くんってもうすぐ日本に一時帰国するんだよね。いつからだっけ?」

これ以上突っ込んで聞かれたくなくて、私は話を無理やり変える。

急に話を変えられてやや眉をひそめた智くんだったが、すぐにいつも通りに戻ると、会話を続けてくれた。
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