Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「それで神奈月亜希さんは、あのスキャンダルの後、こちらに逃げて来たんですか?こちらでも今度は外国人を相手に男漁りをされてるっていうのは本当ですか?」

「‥‥いえ、それは事実無根です」

「本当ですか?清純派で売ってたあなたは、あのスキャンダルが出るまで多くの人を騙してたんですよ。騙すのはお手のものですよね?」

「‥‥そんなことはないです」

一瞬、騙すという言葉に胸が痛む。

よく考えれば、婚約者のフリをしているのも、演じながら周囲の人を騙しているようなものだ。

私はこの記者の言うように、人を騙してばかりの最低な人間なのではないだろうか。

思考が悪い方へ導かれ始めた時、ふいに「環菜」と英語で声をかけられる。

常連客のジェームズさんが私の尋常じゃない雰囲気を察して、割って入ってくれたようだった。

『大丈夫かい?日本語で会話しているから内容までは分からなかったけど、なんだか不穏な空気を感じて思わず声をかけてしまったよ』

『心配させてすみません‥‥』

『さっきマネージャーに聞いたら、彼は英語が分からないらしいじゃないか。困っているなら英語で捲し立てて追い払ってあげようか?』

チラリとマネージャーに目を向けると、彼女は心配そうにこちらの様子を伺っている。

自分が対応して欲しいと頼んだから、私の様子がおかいしいのを見て、責任を感じているのかもしれない。

『もし可能だったら助けてもらえると嬉しいです‥‥』

『もちろん。任せておいて』

私は理由も言わず、ただそう言っただけなのだが、ジェームズさんは何かを察しているのか即答してくれた。

記者はやはり英語は全くできないようで、私とジェームズさんの会話もポカンとした表情で聞いていた。

ジェームズさんは、私から記者へ視線を移すと、紳士的な雰囲気を醸し出しながら早口な英語でペラペラペラと話しかける。

記者の男性はギョッとしたように目を丸くし、狼狽すると私に助けを求めるように日本語で話しかけてきた。

「ちょっと、彼はなんで俺に話しかけてきてるんですか?何を言ってるんですか?」

「さぁ?あなたとお話がしたいらしいですよ」

言葉少なに返事をし、あいまいに微笑む。

その間にもジェームズさんは追い立てるように、記者へ英語で途切れることなく話しかけていた。

「なるほど、こんな年上の外国人まで骨抜きにしてるわけですか。さすがですね。いいネタになりそうですよ」

そう言い捨てると、記者は止める間なく素早くスマートフォンで私とジェームズさんの写真を撮ると、逃げるように立ち去った。

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