Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「あの、こんなこと言うと、智くんは驚くかもしれないし、不快に思うかもしれないんだけど、聞いてくれる?」

「‥‥いいよ」

不穏な響きに身構えるが、環菜が次に口にした言葉は予想外のことだった。

「‥‥私のこと抱いて?婚約者役じゃなくて、ただの秋月環菜として」

「‥‥は?」

思わず素で変な声が出てしまった。

(今のは聞き間違いか?なんかとんでもないことを言われた気がするんだけど)

「智くんには申し訳ないんだけど、私、いつのまにか智くんのこと好きになってしまったの。自分に興味や好感を持たない相手だから必要とされたのに‥‥。こんなこと言われると、困るよね。ごめんね」 

「‥‥え、待って。環菜はフリとか関係なく、僕のことが好きってこと?でも家では興味ない感じだったよね?」

「そう見えるように演じてたの。だって智くんが求めてるのはただの婚約者役だから。もし好きだってことがバレたら、もう一緒にいられなくなると思って必死だった‥‥。ごめんね、好きになっちゃって‥‥」

環菜は本当に申し訳なく思っているのか、目尻に涙を溜めながら、うるんだ瞳で僕を見る。

だが、僕の心はむしろ環菜の表情とは真逆で、歓喜が湧き起こる。

(つまり、僕と環菜は同じ気持ちってことか。お互いにその気持ちを隠して、すれ違ってたんだな‥‥)

「謝らなくていいよ。僕も同じ気持ちだから」

「‥‥えっ?」

「僕も婚約者のフリとか関係なく、環菜を好きってことだよ」

「‥‥うそ!?」

「本当だよ。家ではよそよそしい環菜に何度悲しくなったことか。環菜の演技はある意味完璧だったよ」

あれが演技だったのなら、婚約者のフリをしている時のあの僕を好きで堪らないという態度の環菜が本当の姿だったということだ。

それに気づくとなんとも言えない喜びが胸を駆け巡る。

人と思いが通じ合うというのは、こんなに嬉しいものなのかと思った。


僕はベッドの上に座る環菜に近寄ると、すっぽり腕の中に閉じ込めて包み込むように抱きしめた。

環菜も背中に腕を回してギュッと抱きしめ返してくれる。

そこで、さっき環菜が「抱いて欲しい」とお願いしてきたことを思い出した。
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