Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
『なにがあったか知らないけど、せっかくの美人が台無しだよ。良かったら話してごらん。見ず知らずの相手の方が吐き出しやすいこともあるだろう?』

そう言われ、一人で抱えるのが辛くなっていた私は、祖母と重ねていたこともあり、そのおばあさんにポツリポツリとこれまでを話し出した。

1年前に日本で辛いことがあったこと、逃げるようにやってきたプラハで智くんと出会ったこと、彼に頼まれて婚約者役をやっていたこと、いつの間か好きになっていたこと、気持ちか通じ合ったこと、でも事情があってもう一緒にいるのが難しいこと‥‥。

差し支えない範囲で、ここまでの全部を話した。

おばあさんはゆっくり頷きながら、口を挟まずに私の話に耳を傾けてくれる。

人に話したことで私の気持ちは少し軽くなっていた。

『そうかい、それでその好きな人と一緒に行くことを約束していたストラスブールにやってきたのかい』

『はい、そうなんです。一緒に来れなくても、せめて今は思い出に浸かっていたくて』

『この後のことはまだ考えていないと言ったね。このカフェは住居も併設されているんだけど、次が決まるまでもし良かったらここに住まないかい?』

『えっ?』

その申し出に驚いて、少し俯いていた顔をガバッと上げる。

見ず知らずの私になぜこんなふうに言ってくれるのだろうか。

『本当は働かないかと言えればいいのだけど、フランスでの就労許可は持ってないんだろう?だから部屋が余っているからしばらくここに滞在すればいいさ』

『でも、私なんて見ず知らずの人間ですよ?どうして‥‥?』

『私も最近主人を亡くしてね。今は一人になってしまったんだよ。子供も孫も遠くに住んでいるから本当に一人さ。一人もの同士、慰め合うのはどうかと思ってね』

そうチャーミングに話すおばあさんは、たぶん私を慰めてくれているのだろう。

演技に夢中で亡くした祖母に何も孫孝行してあげられなかった後悔のある私は、時間がある今、代わりにこのおばあさんに孫孝行するのも悪くないかもしれないと思った。

どうせこの後のことは何も決まっていないノープランなのだ。

なにより私の話を聞いてくれて、優しく接してくれるこのおばあさんにも感謝していた。

こうして、おばあさんの家にしばらく住まわせてもらうことになり、ストラスブールでのおばあさんとの傷を癒すような優しい時間が始まった。
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