Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
『環菜、今日はどうするんだい?せっかくだから、クレベール広場のクリスマスマーケットに行っておいでよ。あそこのツリーは見応えあるよ』

12月24日、クリスマスイヴの日、おばあさんにそう言われた。

おばあさんのところにお世話になるようになり、私は穏やかな日々を送っている。

私が日本食を振る舞えばとても喜ばれたし、カフェも少しだけ手伝ったりした。

もちろん金銭はもらっていないので、アルバイトではない。

ちなみに、あの記者の記事はあのあと数日後に公開されたようだった。

【元清純派女優・神奈月亜希のその後!今度は海外で男漁り!?】という見出しのネットニュースが流れていた。

だが、幸いにも前の時のように炎上することはなく、ただの1つのネットニュースとして消費されただけのようだ。

最初のスキャンダルはメディア露出が多く人気上昇中の最中だったからあんなに炎上したが、もう旬の過ぎた元女優の話なんて、誰も気に留めないのだろう。

私はホッとするような寂しいような気持ちになったのだった。



『やっぱりまだ約束のことを気にしてるのかい?クリスマスイヴなんだから、クレベール広場には行ってみるべきだと思うよ』

私が黙っていると悩んでいると思ったのか、おばあさんは言葉を重ねた。

おばあさんの家にいる間に、私はストラスブールの街も色々と散策したのだが、町の中心にあるクレベール広場のクリスマスマーケットにだけはまだ足を運んでいなかった。

フランス最古と言われ、最も古い歴史のあるクレベール広場のマーケットは、まさにストラスブールのクリスマスマーケットのメインどころだ。

智くんとクリスマスに一緒に行こうと約束していたこともあり、なんとなくクリスマスまでは避けていたのだった。

気付けば24日だし、あの約束が果たされることもないだろうからもういいのかもしれない。

『今日行ってみようかな』

『そうしな。聖なる夜にツリーを見るときっと幸せなことが訪れるさ。寒いから厚着していくんだよ』

『ふふっ、分かった!』

おばあさんがロマンチックなことを言うのが可愛くて、思わず笑みが漏れてしまった。

昼間も夜もどちらも綺麗だと聞いたので、私はそれぞれの時間帯に見に行ってみることにした。



トラムに乗って、クレベール広場に近い停留所で降りる。

さすがにクリスマスイヴとあって、多くの人で賑わっていた。

広場にはたくさんのお店がひしめき合っていて、見ているだけでクリスマス気分が高まるような雑貨や温かい飲み物などが売られている。

出店がたくさん出ている日本のお祭りのヨーロッパバージョンみたいな雰囲気だ。

広場の中心には、シンボルマークのように、非常に大きなクリスマスツリーが設置され、その前には多くの人が集まっていた。

(ここに智くんと一緒に来たかったな‥‥。智くんは今頃どうしてるかな?もうプラハに帰ってきているのかな?)

考えるのは智くんのことばかりだ。
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