Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
今さらどうしようもないと思考を断ち切り、私はまた夜にもう一度来ようと思って、一旦その場を離れる。

そして近くのノートルダム大聖堂の方へ向かった。

ノートルダム大聖堂は142mという圧倒的な高さを誇る街のシンボルだ。

大聖堂前の広場にもクリスマスマーケットが並んでいるし、周囲のお店がデコレーションされていて、クリスマスムード一色だ。

私がここに来たのは、せっかくのクリスマスイヴだから、教会で参拝しようと思ったからだった。

先行き未確定の不安定な人生を歩む私だからこそ、神に祈ってみようと思い立ったのだ。

おばあさんが、「聖なる夜にクリスマスツリーでも見れば幸せが訪れるわよ」とロマンチックなことを言っていたが、教会で祈ろうとしている私も大概かもしれない。

中に入ると、外の賑わいが嘘のように、静かで(おごそ)かな空気が訪れる。

私は椅子に座ると、手を合わせ、俯いて祈りを捧げる。

(どうか私の未来に明るい導きを。大好きな演技をまた楽しめるようになりたいです。そして大好きな人が幸せでいてくれますように)

勝手に智くんの幸せまで祈り、満足するとその場をあとにした。


しばらく街中をぶらぶらして、暗くなってきた頃に、再度クレベール広場に戻る。

クリスマスツリーはライトアップされ、広場全体も美しく輝くイルミネーションに包まれ、昼間とはまるで違う雰囲気だ。

そのロマンチックな美しさに思わず息を呑んだ。

夜は家族と家で過ごす人が多いのか、昼間よりも人が少なくなっていて、落ち着いた雰囲気が漂っている。

私はせっかくだから今度はクリスマスツリーを間近で眺めようと近づく。

クリスマスツリーの前に立つと、首が痛くなるくらい上を向いてもその先端が見えなくて、改めてその高さに圧倒された。

夢中になってツリーを隅々まで見入っていたその時だ。

ふいに腕を掴まれる感触がして、私は驚いて身構える。

掴まれた方を振り返って、思わず腰を抜かしそうになるほどさらに驚いた。

だってそこには、ここにいるはずのない智くんの姿があったのだからーー。
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