Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「こ、婚姻届‥‥!?」

「そう。いっそもう入籍してしまえばいいと思ってね」

「ちょ、ちょっと落ち着いて!さすがに入籍はもっと考えた方がいいよ。私じゃ智くんに釣り合わないし‥‥」

「環菜が思うその釣り合わないっていうのはどんなところが?」

そう問われて、このままだと智くんの勢いに流されてしまいそうだと思った私は、率直に思っていることを話し出す。

「私は天涯孤独な身の上だし、智くんの仕事の役に立つようなものがないでしょ?ほら、三上さんのようにお父様が大企業の重役とかなら力を借りれるんだろうし、結婚となるとそういう相手の方がいいのかなって」

智くんは私の言葉に静かに耳を傾けていて、「それで?」というふうに次の言葉を促した。

それに応じて私はさらに言葉を重ねる。

「それに、智くんも知ってしまったと思うけど、私は過去にスキャンダルを起こした、もう終わった女優なの。私といると智くんにまで迷惑かけちゃうから。ほら、イメージも悪いしね」

「他には?」

「この2つかな。特に後者の方はどうしようもないから‥‥」

智行くんは私の話を聞き終わると、うんうんと頷いて何かを吟味した後、今度はまたニコリと笑顔になって私に目を向ける。

その笑顔になんとも言えない圧を感じてしまうのは気のせいだろうか。

「それならこれから僕がその環菜の懸念を払拭するとともに、入籍するメリットを教えてあげるよ」

「え?」

「まず身の上の件だけど、僕は結婚相手に全くそんなことは求めてないよ。相手の親の力なんてなくても自分でやれるだけの能力はあると思ってるしね。それとも環菜は僕に能力が足りないって思ってる?」

「‥‥そんなわけない!智くんは努力家だし、仕事もできる人だと思うよ!」

「なら、心配することないね。それに環菜は今までもレセプションにパートナーとして同行してくれて、役に立ってくれてるし。むしろ役に立ち過ぎてるくらいで、感謝してるよ」

「役に立ってるなら嬉しいけど‥‥」

でももう一つの方はどうしようもないよねと言いかけて辞めた。

あのスキャンダルは私自身もまだ隠れて、逃げてと、今後が見通せないでいるのだ。

なのに、智くんは笑顔のまま、なんてことないというふうに続ける。

「もう1つのスキャンダルの件だけど、それも問題ないよ。環菜はもう逃げも隠れもしなくていいよ」

「‥‥え?」

「たぶん近日中に記事が出るよ、あのスキャンダルの真実についてね。それで世間からのイメージは回復すると思う。そうなれば僕に迷惑がかかることなんて全くない。むしろ妻が女優だなんて羨ましがられるくらいだよ」

思わぬことを言われて、私はまた固まってしまう。

(スキャンダルの真実が公表される‥‥?もう逃げなくても、隠れなくてもいい‥‥?突然なんで!?どういうこと!?)
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