Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
『聖なる夜に奇跡が起きたね。環菜、良かったね』

智くんを連れておばあさんの家に戻って紹介すると、真っ先にそう言われて微笑まれた。

確かにあの時はロマンチックなこと言うなぁと思ったのだが、まさかそんなことが私の身に降りかかるとは想像もしていなかったのだ。

ノートルダム大聖堂でのお祈りも効果があったのかもしれないとも思った。



あの後私たちは少しの間、クリスマスマーケットを見て回ったあと、ここへ帰って来た。

私はここ数週間のストラスブールでの暮らしについてやおばあさんについてを智くんに話した。

ぜひ挨拶とお礼がしたいと言われて、一緒にここまで来たのだった。

おばあさんは智くんの登場に一瞬驚いていたが、私が事情を説明すると自分のことのように喜んでくれた。

智くんはフランス語が話せるから、おばあさんとフランス語で会話をしているようだ。

フランス語はさっぱり分からない私は、2人を残して一度自分の部屋へ戻る。

しばらくすると、おばあさんと話し終えた智くんも私の部屋へとやってきた。

「おばあさんが僕も今夜はここに泊まっていいって。環菜の部屋で過ごしてって言われたから来たよ」

「え?ホテル取ってあるんじゃないの?」

「聖なる夜に恋人が一緒に過ごさないなんてあり得ないっておばあさんに言われたよ。だからここに泊めてね」

どうやらおばあさんに言い負かされたらしい。

ロマンチックなところがある彼女らしい言葉だった。

泊めるのはもちろん構わないのだけど、この部屋のベッドはそんなに広くないから狭そうだ。

(かなりくっつかないと落ちちゃいそうだな‥‥)

そう思った瞬間、それを想像してどんどん恥ずかしくなってくる。

智くんに会うのが久しぶりということもあるのだろうが、急に心拍数が上がってきてしまった。

「ちょうどいいから、今後のこととかをゆっくりすり合わせよう」

「そ、そうだね!」

長時間外にいてすっかり身体の芯から冷えてしまった私たちは、順番にシャワーを浴びて暖まる。

室内は暖房が効いていて十分暖かいが、こうしてシャワーを浴びると、芯からほぐれるような気持ちになるのが不思議だ。

夜も遅くなると、私たちはベッドの上に並んで転がりながら、今後についての話し合いを始めた。
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