Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
『環菜、久しぶりだね。ここのお店を辞めてしまって以来かな?』

記者が突然来て、プラハを逃げるように去った時のことだった。

あの時にはジェームズさんに記者を追い払ってもらい助かったのだ。

『先日は助けて頂きありがとうございました。ところで、今日はなぜここに?皆川さんとお知り合いなんですか?』

『まだ何も聞いていないんだね』

『ジェームズさん、僕が今から説明します』

皆川さんがそうジェームズさんに話しかけると、今度は私に向き直る。

そして皆川さんの口からはとんでもないことが語られた。

『僕が数ヶ月にプラハに来たのは覚えてるよね?あの時、亜希に女優復帰を断られて、道端に佇んでいた時に偶然出会ったのがジェームズさんなんだ。彼を見た時は驚いたよ。まさかこんなところでお会いできるとは想像してなくて、思わず僕から声をかけたんだ』

『ジェームズさんに皆川さんが声をかけたの?知り合いだったとか?』

なぜジェームズさんを見て驚いたり、声をかけたりするのだろうか。

それが分からず、私は首を傾げる。

『彼はアメリカの動画配信サービスの会社「Netfield(ネットフィールド)」のCEOのジェームズ・パーカー氏だよ!よく世界長者番付にも名を連ねているじゃないか」

「‥‥!!」

Netfieldのジェームズ・パーカー氏という名前はもちろん聞いたことはあるが、顔をよく知らなかった。

まさかジェームズさんがそんなすごい人とは思わずビックリである。

Netfield といえば、映画やドラマを配信していて、独自にオリジナルコンテンツも制作している世界中で利用者がいる配信サービスだ。

どうりでジェームズさんがドラマや映画に詳しいはずだ。

『そんなすごい方だとは存じ上げず、フランクに話してしまってすみません‥‥!』

『やめてくれよ、環菜。今まで通りでいいよ』

知らなかったとはいえ失礼があったかもとお詫びをすると、全く気にしてないというふうに手を振られた。

『それで声をかけたんだけど、僕が芸能関係の仕事をしていると知ると、ジェームズさんに日本の女優について聞かれたんだよ。気になっている女優がいるとかで。でも写真もないしなんとも言えないから、逆に売り込んでみようと思って僕から環菜の写真を見せたんだ』

『皆川さん‥‥』

相変わらず隙あらば営業をかけて仕事をとってくる敏腕ぶりだ。

しかもその時は私のマネージャーでもなかったのに。

『ところが、ジェームズさんが探していたその女優というのが、なんと環菜だったんだよ!思わぬ事態で、その時にお互いの連絡先を交換したんだ。で、今日ここに来て頂いたわけだよ』
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