Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
皆川さんからことの経緯を一通り聞くと、今度はジェームズさんが私に話しかける。

それはいつものフランクな常連さんではなく、大企業CEOとしての威厳ある姿だった。

『僕が環菜を探していたのは、前にも話したとおり、君が過去にテレビや映画を主とした女優活動をしていたと見当をつけたからだ。だけど、君本人からはその過去については話してくれなかったからね』

『それは‥‥』

『いや、それはいいんだ。事情があったことは皆川さんからも聞いたしね。皆川さんから教えてもらって君の過去の出演作も観させてもらったよ。それで僕は君にNetfieldがオリジナルで制作しているドラマに出演して欲しいと思ってるんだ。つまり、女優としてオファーしたい』

『ええっ!?』

思わぬ申し出に声が裏返りそうになる。

私が動揺しているのを感じたのか、隣に座る智くんは、落ち着かせるようにテーブルの下でそっと私の手を握ってくれた。

『このカフェに通っていたのは、ある意味オーディションみたいなもので、失礼ながら君を観察していたんだ。もちろんヨーロッパで仕事があってプラハに滞在しているから、美味しいクロワッサンを目当てにしていたのもあるけどね』

なんてことだろう。

まさかジェームズさんとの会話で色々チェックされていたとは思わなかった。

確かに今思えば、「どういう女優になりたいか」「どの女優のどんな演技がいいと思うか」など世間話の一環で、それっぽいことを聞かれていたなと思い出す。

『君は今、日本で活動していないんだろう?スケジュールも空いている。それならぜひ出演してほしい。英語の作品だけど、環菜の英語力であれば問題ないから』

『どう?環菜、とってもいい話だろう?』

ジェームズさんに熱くオファーを頂き、皆川さんは目を爛々と輝かせている。
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