Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
そして指輪も買い、入籍の手続きもさっさと終わらせて、ストラスブールのあの日から約1ヶ月後には桜庭環菜になってもらったのだった。

ようやく環菜を法的にも自分のものにできたところで、次は環菜の仕事のことだなと思い、皆川さんに連絡をとった。

日本で皆川さんに会うために事務所へ訪問した際に、ジェームズさんの話は聞いていた。

あの時皆川さんが言っていた「大きなチャンス」というのがNetfieldからのオファーだったのだ。

その話を聞いた時は驚いたが、さすが環菜だと誇らしく思ったものだ。

たぶん環菜は本心ではまた女優として色んな役を演じてみたいと思っている。

それはそばにいれば分かった。

そもそも僕の婚約者役を引き受けたのも、なんでもいいから演じたいと思っていたのではないかと今になってそう思うようになった。

ただあんなスキャンダルを経験し、日本で女優活動をすることや、日本で人目を気にしながら生活することに抵抗があるのだろう。

ならば、今回のオファーは願ってもない話なのである。

ジェームズさんと皆川さんと会う場を設け、迷う環菜に彼女の負けず嫌いな性格を利用して少し焚き付けてみれば、やはりオファーを快諾して女優活動を再開することになった。

あれ以来、環菜はやる気に満ち溢れている。

新しい挑戦を目の前に、台本を読み込んだり、Netfieldの過去のオリジナルドラマを観て勉強したり、英語の発音の強化をしたりと精力的だ。

もともと努力家だとは思っていたが、女優としての彼女を目の当たりにして、これまでこうして一心不乱に努力を積み重ねてきたのだろうなと尊敬する気持ちが新たに生まれた。

環菜の夫として、そばにいて支えたいし、応援したいと思っている。




「はぁ‥‥。それなのにこのタイミングで日本か」

そう、この日本帰還の辞令はあまりにも時期が悪い。

僕の日本帰還は4月からだが、環菜の撮影は3月末頃からチェコとアメリカを行き来しながら行われる予定なのだ。

それに環菜はしばらく日本に住むのは避けたいだろう。

そうなると、せっかく環菜を手に入れて一緒に居られると思ったのに離ればなれになってしまう。

環菜が女優として再スタートしている時にもそばにいられない。

(どうするかな‥‥。環菜も困るだろう。とりあえず早いうちに話さないとな)

せっかくやる気を出している環菜の邪魔をするような気がして、僕は気が重くなり、ため息を吐いてしまうのを止められなかった。
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