Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
僕が疑問に思ってただ環菜の目を見つめていると、環菜が口を開く。

「私が何に怒ってるか分かる?」

「それが特に心当たりがないんだけど」

その答えはますます火に油を注いだようだ。

白い肌を少し赤らめて怒っている。

「‥‥今日、渡瀬さんと偶然街で会ったの。そしたら智くんが4月から日本に帰還することになったって言ってた。当然私は知ってると思って話されたから、私も知ってるふりしたよ?でも聞いてないよ‥‥。なんで言ってくれなかったの‥‥?私ってそんなに智くんにとってどうでもいい存在なのかなと思うと悲しくって‥‥」

「環菜‥‥」

怒っていたのから一転、今度はタレ目がちな大きな目には涙が浮かび、白い頬に一筋流れ落ちる。

自分が話さなかったせいで環菜を傷つけてしまったことに気付き、僕は苦しくなった。

傷つけるつもりはなかったと言うように、目の前の環菜に手を伸ばし、彼女の頭を抱えるように抱きしめる。

環菜の涙で僕の胸の辺りの服が濡れていく。

「どうでもいい存在なんて、そんなはずないよ。知ってるよね?僕が環菜のことを本当に愛してるってことは」

「‥‥じゃあなんで言ってくれなかったの?」

「言わなかったんじゃなくて、言えなかった‥‥」

「‥‥言えなかった?」

「‥‥そう。環菜はこれからチェコとアメリカを行き来しながら撮影に入るよね?それに日本にもしばらくは住みたくないと思ってるのも知ってる。ということは、離ればなれにならざるを得ない。‥‥けど、不安だったんだ」

「不安‥‥?」

「‥‥離れると環菜は僕のもとから去ってしまうんじゃないかって。新しい挑戦をしようとしている環菜には僕の存在は邪魔になって負担になってしまうかもしれないから」

腹に抱えていたことを珍しくすべて包み隠さずに吐露した。

僕からはすっかりいつもの作った笑顔は消えてしまっている。

「‥‥なにそれ!ねぇ、智くんそれ本気で言ってるの?」

「本気だけど?結婚だって僕が迫ったようなもんだし‥‥」

そうポロッと漏らすと、環菜はガバッと顔を上げ、ニッコリと笑顔を作りながら僕を見る。
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