Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
それから数週間後には、プラハでの撮影が始まり出した。

スタッフが事前に撮影許可を取った場所で、各シーンを撮っていく。

映像映えする観光スポットでの撮影が多く、そういったところは人の邪魔にならないように、早朝や夜間などの時間帯にしかなかなか撮影許可が降りない。

撮影期間中は、そんな不規則なスケジュールに合わせて動いていた。

そして、撮影開始からまもなくすると、智くんの日本帰国の日がやってきた。




「じゃあ先に日本に行ってるね。離れることになるけど、遠くからでも環菜を応援してるから」

「うん‥‥」

「不規則なスケジュールだから体調には気をつけて。絶対に無理はなしいこと。いい?」

「うん‥‥」

「しばらくは僕も日本で忙しくなると思うけど、何かあったら必ず連絡入れてね。分かった?」

「うん‥‥」

私たちは今、ヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港にいる。

チェックインを済ませた智くんは、これからセキュリティエリアに入るため、お別れの挨拶をしているのだ。

離ればなれになることは分かっていたし覚悟していたことだけど、いざ空港でその時が訪れると胸が引き裂かれるようだった。

寂しくて寂しくてたまらない。

離れて暮らすのは約半年の予定だから、秋には会えるのに、半年が長く感じてしょうがないのだ。

英語のアナウンスが空港内に流れ、智くんが乗るフライトがまもなく搭乗案内が始まるので、早めに搭乗口に来て欲しい旨を伝えている。

ギリギリまで私といれるようにここにいてくれたのだが、もうタイムリミットのようだ。

「‥‥そんな目で見つめないでよ。離れ難いから。離れても大丈夫って言ったのは環菜でしょ?」

「そうだけど、やっぱりいざ離れる時になると寂しいね‥‥」

「大丈夫。待ってるから。僕のいるところが環菜の帰る場所なんでしょ?」

「うん。智くんが私の帰る場所‥‥!」

私はギュッと智くんに抱きつくと、智くんもきつく抱きしめ返してくれる。

(ここが私の、私だけの帰る場所。だから、精一杯頑張って戻ってくるからね!)

包まれた温かさに身を委ね、数ヶ月分をチャージするように智くんを心と身体に焼き付ける。

「‥‥うん!チャージ完了!」

涙が浮かんでいた目をこすると、私は笑顔を浮かべる。

私たちは最後に触れるだけの優しいキスを長めに交わすと、目を合わせて微笑み合った。

その瞳には不安や怯えはなく、お互いを信頼し応援する気持ちがこもっていて、夫婦として絆を感じ合えた。
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