Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
プラハの街並みは、本当に絵本に入り込んだかのように可愛い。

日本で写真を見ているだけの時からそう思っていたが、その場に立つとまるで自分がキャラクターとしておとぎの国に迷い込んだような気分になる。

どこもかしこも絵になり、フォトジェニックな景観だった。


カタリーナは、生活に必要になるだろうことを次々と案内しながら教えてくれる。

近くのスーパーやおすすめのカフェの場所、地下鉄やトラム(路面電車)の乗り方と最寄駅、通貨の種類などだ。

案内してもらいながら周囲を見渡し、私はあることに気づく。

『‥‥日本人を全然見かけないね』

『そうね、カナダに比べると少ないわよ。観光シーズンにはたまに見かけるけど。まぁそれももしかしたら中国人か韓国人かも。私、正確に見分けつかないし』

ヨーロッパの人を見て、私たちがどこの国の人か見分けがつかないように、ヨーロッパの人から見るとアジア人はみんな一緒に見えるらしい。

私は日本人とそれ以外のアジア人の見分けはだいたいつくが、プラハで見かけるのは韓国人が多いような気がした。

(良かった。日本人が少ないのはすごく助かるな。私のことを知ってる人がいない場所なんだ‥‥!)

これまで人目を気にしてコソコソしていた私だが、心に開放感が訪れる。

こんなに人がいても誰も私を知らないなんて、世界はなんて広いんだろう。

日本とは全く違う街並みを見ると、日本という狭い世界で生きていたことを実感する。

私は被っていたコートのフードをそっと脱ぎ、外の空気を肌で感じてみた。

ひんやりとした空気が心地いい。

(誰も私を知らないこの地で、またやり直したい。自分を見つめ直して、私らしく生きたい‥‥!)

異国の地の美しい景色と信頼のおける長年の友人の存在が、私の視界を広げ、傷ついた心を癒やしてくれるようだった。


『ふふっ。環菜がリラックスしてくれてるみたいで良かったわ。なんだか環菜らしい顔つきに戻ってきたみたい』

『うん、こっちに来たらって誘ってくれてありがとう!なんだか目の前の霧が晴れたような気がする。カタリーナが言ってたように、逃げることは負けじゃないんだね』

『私、環菜のその笑顔がとっても好きだわ。あなたは昔も今も魅力的よ』

カタリーナの言葉は本心で言ってくれているということが伝わる。

私には敵しかいない、悪意しか向けられないと思い込んでいたあの時期の私が、救われるようだった。

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