Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
『え?先日も会ったって?環菜は智行と知り合いなの?』

アンドレイが予想外だというふうに驚いたような顔で私と桜庭さんを交互に見ている。

『知り合いというか、この前街で困っていた時に同じ日本人として助けて頂いたんです。お名前とかは知らなくて。桜庭さん、その節はありがとうございました』

『なるほど、そういうことね』

説明すると、合点が言ったというようにアンドレイは大きく頷いた。

2人の話によると、アンドレイと桜庭さんは、在外公館勤務の外交官と現地の若手議員という立場で何度も過去に会っているそうで、年齢も近いことから親しくなったそうだ。

アンドレイとの会話がひと段落すると、桜庭さんは私に話を振ってくる。

『環菜さんはこちらにお住まいなんですか?先日は旅行とおっしゃってた気がしたんですけど』

『えぇ、まぁ。今はアンドレイの恋人の家に居候させてもらってるんです』

『なるほど。じゃあしばらくこちらに滞在されるんですね?』

『その予定です』

桜庭さんはチェックリストの事項を確認していくように私に質問してくる。

私の答えを聞いて桜庭さんが一瞬ニヤッと笑った気がしたが、次の瞬間にはいつもの笑顔だ。

相変わらずあの甘い王子様のような笑顔だが、どうも私はこの人が怖いと本能的に感じる。

なんというか、この笑顔の裏で何を考えているか分からない底知れなさを感じるのだ。

だって、顔は笑顔を作っているのに、目が笑っていない。

演技をする人間としては、こういう細かなところが気になってしまう。

ただ間違いなく言えるのは、この人は異性に相当モテるであろうということ。

普通の人は目が笑ってないところまで気づかないくらい彼の笑みは自然で理想的な笑顔なうえに、端正な顔立ちと日本人離れした長身、三揃いのスーツを着こなすスタイル、そのすべてが完璧だった。

(美男美女とずっとこれまで仕事をしてきたけど、なかなかこの容姿レベルの男性は芸能界にもいなかったな。一般社会でこの外見だと、さぞ目立つだろうから逆に大変そうかも)

私は観察しているのがバレないように、凛とした態度で上品な微笑みを作りながら、彼を盗み見ていた。

すると桜庭さんが、おもむろに口を開き、思いがけないことを言い出した。

『アンドレイ、少し環菜さんを借りてもいいかな?ちょっとお願いしたいことがあって。日本人に手を貸してもらえるとすごく助かるんだ』

『環菜がいいなら問題ないよ。環菜、どう?』

『えっ?えぇ、私でお役に立つなら‥‥』

こう言われてしまうと断れず、私は了承しながらコクリと頷く。

本当は日本人にお願いしたいことというワードが気になって、できれば避けたいところだったのだけど。

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