Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「なぜ婚約者なのかも分かりました。‥‥あとは、その婚約者役をやるのが、なぜ私なんですか?別に私じゃなくても桜庭さんなら応じてくださる女性がいっぱいいらっしゃると思いますけど‥‥?」
私は一番気になっていたことを口にした。
私が女優だったという過去を知ってのことであればまだ理解できるが、そうでないのならなぜ私を指名するのかが分からないのだ。
「おっしゃる通り、正直なところを申し上げると、お願いすれば応じてくれる女性は他にもいると思います。でも僕はあなたにお願いしたいんです」
「‥‥なぜですか?」
「これにもいくつか理由があります。まず、環菜さんは容姿端麗で英語もできる。パーティーに同伴してもらう上で助かります。それに短期滞在ではなく、しばらくこちらに住まれる予定ですしね。次に、環菜さんはおそらく演じることが上手いからです。過去に演劇でもされてました?」
「‥‥どうしてそう思うんですか?」
彼に演じることが上手いと言われたのは意外だった。
恐る恐る私はそう思った理由を聞いてみた。
「先日街で偶然会ったじゃないですか。あの時の印象と今日が全然違うからです。最初は同一人物かどうか目を疑いましたよ。それに今日も様子を見てたら、話す相手に合わせて微妙に口調や態度を変えているように思ったんですよ。だから過去に演じるようなことを経験されたのかなと思って。当たってます?」
「‥‥よく見てらっしゃいますね。当たってます」
どうやら彼は私の過去を知っているというわけではないようだ。
こんな細かなところまで観察されていたのかと思うと恥ずかしいが、同時に演技を褒められて悪い気はしなかった。
「そして最後に、これが環菜さんにお願いしたい一番大きな理由なんですが‥‥」
「大きな理由?」
「ええ。あなた、僕に全く興味ないですよね。むしろ警戒されてる感じかな。婚約者役をお願いしても、それで勘違いされることはないだろうし、好意を持たれることもないかなと思いまして」
「な、なるほど‥‥!」
モテる男性ならではの理由だと思ったし、なんとも説得力のあるものだった。
(それにしても、警戒していることまで勘付かれているとは、さすが外交官だけあって鋭いなぁ)
これまでの彼の淀みない回答と観察眼に感心してしまった。
「どうです?納得してくれました?」
「えぇ、そうですね」
「では引き受けてくれますか?」
きれいな目に見つめられ、確認するように問いかけられる。
本当はあまり日本人には関わりたくないし、この人は見た目通りの優しいだけの人ではなさそうだから怖い気持ちもある。
だけどそれと同時に、行き場を失った「演じたい!」という演技への欲求が心の底から湧き上がってくる。
(私、また演じる機会を得られたんだ‥‥!たとえそれがドラマや映画じゃなくても、演じたい!)
考え込んでいた私が顔を上げると、桜庭さんは再び手を私に差し出した。
「‥‥わかりました」
私は彼の手を取り、その申し出を受け入れる。
今度はエスコートではなく、婚約者役を演じる契約への合意となる握手だった。
私は一番気になっていたことを口にした。
私が女優だったという過去を知ってのことであればまだ理解できるが、そうでないのならなぜ私を指名するのかが分からないのだ。
「おっしゃる通り、正直なところを申し上げると、お願いすれば応じてくれる女性は他にもいると思います。でも僕はあなたにお願いしたいんです」
「‥‥なぜですか?」
「これにもいくつか理由があります。まず、環菜さんは容姿端麗で英語もできる。パーティーに同伴してもらう上で助かります。それに短期滞在ではなく、しばらくこちらに住まれる予定ですしね。次に、環菜さんはおそらく演じることが上手いからです。過去に演劇でもされてました?」
「‥‥どうしてそう思うんですか?」
彼に演じることが上手いと言われたのは意外だった。
恐る恐る私はそう思った理由を聞いてみた。
「先日街で偶然会ったじゃないですか。あの時の印象と今日が全然違うからです。最初は同一人物かどうか目を疑いましたよ。それに今日も様子を見てたら、話す相手に合わせて微妙に口調や態度を変えているように思ったんですよ。だから過去に演じるようなことを経験されたのかなと思って。当たってます?」
「‥‥よく見てらっしゃいますね。当たってます」
どうやら彼は私の過去を知っているというわけではないようだ。
こんな細かなところまで観察されていたのかと思うと恥ずかしいが、同時に演技を褒められて悪い気はしなかった。
「そして最後に、これが環菜さんにお願いしたい一番大きな理由なんですが‥‥」
「大きな理由?」
「ええ。あなた、僕に全く興味ないですよね。むしろ警戒されてる感じかな。婚約者役をお願いしても、それで勘違いされることはないだろうし、好意を持たれることもないかなと思いまして」
「な、なるほど‥‥!」
モテる男性ならではの理由だと思ったし、なんとも説得力のあるものだった。
(それにしても、警戒していることまで勘付かれているとは、さすが外交官だけあって鋭いなぁ)
これまでの彼の淀みない回答と観察眼に感心してしまった。
「どうです?納得してくれました?」
「えぇ、そうですね」
「では引き受けてくれますか?」
きれいな目に見つめられ、確認するように問いかけられる。
本当はあまり日本人には関わりたくないし、この人は見た目通りの優しいだけの人ではなさそうだから怖い気持ちもある。
だけどそれと同時に、行き場を失った「演じたい!」という演技への欲求が心の底から湧き上がってくる。
(私、また演じる機会を得られたんだ‥‥!たとえそれがドラマや映画じゃなくても、演じたい!)
考え込んでいた私が顔を上げると、桜庭さんは再び手を私に差し出した。
「‥‥わかりました」
私は彼の手を取り、その申し出を受け入れる。
今度はエスコートではなく、婚約者役を演じる契約への合意となる握手だった。