Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「では契約成立ということで」

「はい‥‥」

「それでは続いて契約内容と条件について詳細を詰めましょうか」

私が合意するやいなや、桜庭さんはテキパキと次へ話を進行させていく。

なんというかとても手際が良く、普段の仕事ぶりが伺えるようだ。

「僕が求めることを述べるので、それに対して意見をいただけますか?それで調整しましょう」

「分かりました」

彼はスマートフォンを取り出し、音声入力に切り替えると、話しながらメモを取り始める。

彼が挙げた項目はこうだった。

・私は婚約者役として普段から振る舞うこと
・私はパートナー同伴のものに協力すること
・それに伴う必要なものはすべて桜庭さんが準備すること

スマートフォンにメモした内容を見せてもらいながら、私はあれこれ細かく質問する。

「この普段から振る舞うっていうのは、具体的にどうすればいいですか?」

「例えば僕の同僚や周囲の人の前で、恋人として僕に接してもらえばいいですよ」

「恋人としてですね。あの、それはどの程度の‥‥?」

「あぁスキンシップとかですか?人前で疑われない程度ですかね。そこらへんは臨機応変にいきましょう」

桜庭さんにとっては重要なことではないようで、サラリと流されてしまった。

(疑われない程度、一体どれくらいだろう?スキンシップをしなくても恋人に見えれば問題ないのであれば、そのあたりは演技力でカバーするしかないなぁ)

「期間はどうしますか?」

「環菜さんはいつまでプラハにいる予定ですか?できればいる間はお願いしたいですね」

「具体的には決めてませんが、1年は滞在しようかなと思ってます」

「それなら充分だと思います。僕もその頃には日本に呼び戻されるかもしれませんし」

桜庭さんはプラハにもう丸3年住んでいるそうで、来年あたりに異動になってもおかしくないらしい。

そういうことなら、私がいる間だけでも役に立てるのかもしれない。


< 28 / 169 >

この作品をシェア

pagetop