Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「そして最後に、これが環菜さんにお願いしたい一番大きな理由なんですが‥‥」
「大きな理由?」
「ええ。あなた、僕に全く興味ないですよね。むしろ警戒されてる感じかな。婚約者役をお願いしても、それで勘違いされることはないだろうし、好意を持たれることもないかなと思いまして」
「な、なるほど‥‥!」
彼女はいたく納得したようで、何度も深く頷いている。
もしかすると、容姿の優れた彼女も僕と同じように異性から勘違いされて困った経験が多いのかもしれない。
同じ経験に共感してくれたに違いないと思った。
「では引き受けてくれますか?」
「‥‥わかりました」
こうしてようやく僕は彼女の合意を引き出すことに成功した。
そのあと、契約内容や条件などを詰めていく。
気が変わらないうちにサッサと決めてしまいたいところだと思い、考える暇を与えないように主導権を握りサクサクと進行させた。
細かい設定を決めようとなった時、急に彼女がイキイキとし出したのには驚いた。
自分からアイディアを出してきて、嬉々として話しかけてくるのだ。
まるで演じるのが楽しみと言わんばかりの自然な笑顔が溢れていた。
いつも警戒する目ばかり向けられていたから、こんな顔もするのかと新鮮に感じる。
設定が昔馴染みということになり、それじゃあ敬語はやめて呼び方も変えようと提案し、僕自身がまず話し方を砕けたものにした。
すると彼女は少し照れたように動揺していて、それがなんだか可愛いかった。
ちょっとからかってみたくなり、僕は迫るように彼女に笑顔で詰め寄る。
「敬語になってる。早く慣れてね。あと僕の名前、ちゃんと言える?」
黙り込んでグルグル考え込む彼女を尻目に、心の中でほくそ笑んでいると、突然ばっと顔を上げた彼女は、上目遣いで僕を見上げてきた。
そして‥‥
「智くん‥‥?」
と思いもしなかった呼び名を口にしたのだ。
これには絶句してしまい、僕としたことがしばらく素で固まってしまった。
(なんだこれ。すごい破壊力なんだけど‥‥。彼女はこれ天然でやってるんだろうか)
彼女を見やると全く狙った様子は見受けられず、けろっとしている。
すぐに僕も平然を装い、いつもの笑顔作ると話を変えるように彼女の住環境について尋ねてみた。
これから住むところを探す予定だというので、今回のお願いで彼女にメリットを与えるためにちょうど良いと思い、同居を提案してみる。
驚いて目を見開く彼女は断ってきそうな雰囲気だったので、僕は彼女の弱い言葉をそっと添える。
「そんなに驚くこと?役作りの一貫だと思えばいいじゃない。それに家賃はもちろんいらないし、環菜が婚約者役を引き受けてくれることのメリットにもなると思うんだけど、どうかな?」
きっと「役作り」という言葉がヒットすることだろう。
その見込みは正しく、グラリと心が揺れる様子が伺え、最後には僕の申し出を素直に受けることにしたようだった。
女性と暮らすなんて考えられないと思っていたけど、僕にこんなに興味のない彼女となら面白そうだと思った。
それに彼女と婚約者のふりをすることになるのだが、どんな感じになるのかも楽しみである。
すっかり当初の目的を忘れて、単純に楽しんでいる自分に僕は全く気づいていなかったーー。
「大きな理由?」
「ええ。あなた、僕に全く興味ないですよね。むしろ警戒されてる感じかな。婚約者役をお願いしても、それで勘違いされることはないだろうし、好意を持たれることもないかなと思いまして」
「な、なるほど‥‥!」
彼女はいたく納得したようで、何度も深く頷いている。
もしかすると、容姿の優れた彼女も僕と同じように異性から勘違いされて困った経験が多いのかもしれない。
同じ経験に共感してくれたに違いないと思った。
「では引き受けてくれますか?」
「‥‥わかりました」
こうしてようやく僕は彼女の合意を引き出すことに成功した。
そのあと、契約内容や条件などを詰めていく。
気が変わらないうちにサッサと決めてしまいたいところだと思い、考える暇を与えないように主導権を握りサクサクと進行させた。
細かい設定を決めようとなった時、急に彼女がイキイキとし出したのには驚いた。
自分からアイディアを出してきて、嬉々として話しかけてくるのだ。
まるで演じるのが楽しみと言わんばかりの自然な笑顔が溢れていた。
いつも警戒する目ばかり向けられていたから、こんな顔もするのかと新鮮に感じる。
設定が昔馴染みということになり、それじゃあ敬語はやめて呼び方も変えようと提案し、僕自身がまず話し方を砕けたものにした。
すると彼女は少し照れたように動揺していて、それがなんだか可愛いかった。
ちょっとからかってみたくなり、僕は迫るように彼女に笑顔で詰め寄る。
「敬語になってる。早く慣れてね。あと僕の名前、ちゃんと言える?」
黙り込んでグルグル考え込む彼女を尻目に、心の中でほくそ笑んでいると、突然ばっと顔を上げた彼女は、上目遣いで僕を見上げてきた。
そして‥‥
「智くん‥‥?」
と思いもしなかった呼び名を口にしたのだ。
これには絶句してしまい、僕としたことがしばらく素で固まってしまった。
(なんだこれ。すごい破壊力なんだけど‥‥。彼女はこれ天然でやってるんだろうか)
彼女を見やると全く狙った様子は見受けられず、けろっとしている。
すぐに僕も平然を装い、いつもの笑顔作ると話を変えるように彼女の住環境について尋ねてみた。
これから住むところを探す予定だというので、今回のお願いで彼女にメリットを与えるためにちょうど良いと思い、同居を提案してみる。
驚いて目を見開く彼女は断ってきそうな雰囲気だったので、僕は彼女の弱い言葉をそっと添える。
「そんなに驚くこと?役作りの一貫だと思えばいいじゃない。それに家賃はもちろんいらないし、環菜が婚約者役を引き受けてくれることのメリットにもなると思うんだけど、どうかな?」
きっと「役作り」という言葉がヒットすることだろう。
その見込みは正しく、グラリと心が揺れる様子が伺え、最後には僕の申し出を素直に受けることにしたようだった。
女性と暮らすなんて考えられないと思っていたけど、僕にこんなに興味のない彼女となら面白そうだと思った。
それに彼女と婚約者のふりをすることになるのだが、どんな感じになるのかも楽しみである。
すっかり当初の目的を忘れて、単純に楽しんでいる自分に僕は全く気づいていなかったーー。