Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「ところで、環菜はいつプラハに来たの?」

「今年の3月下旬かな。まだ1ヶ月も経ってないの」

「最近なんだね。なんでプラハに来ることになったの?」

「えっと、それは‥‥。まぁ色々あって!」

あまり聞かれたくない質問に言葉が詰まったが、誤魔化すように明るく笑った。

何かしら察するものがあったのか、桜庭さんはそれ以上理由については触れず、別の質問に変えた。

「日本では何の仕事してたの?」

だが、その質問もまたしても答えに困るものだった。

アンドレイに同じことを聞かれた時の答えを踏襲して、曖昧な答えをしつつ、私は逆に質問をすることで話を逸らした。

「色々だけど、お芝居を少しかじったりしてたかなぁ。桜庭さんはプラハに赴任する前はどこにいたの?」

「外務省に入省したあとは、しばらく日本で研修があって、そのあとはロンドンに赴任してたよ。ロンドンは2年だったかな」

「ロンドンもいいね!ミュージカルも盛んだし見所が多そう!」

「今度ロンドンに連れて行ってあげようか?プラハからそんなに遠くないし」

そんな素敵な提案にすぐに飛びついてしまいたかったが、よく考えるとロンドンは日本人が多くて危険だ。

あまり人目につきたくないから避けたい場所だった。

「嬉しい提案だけど、もっと日本人が少ない穴場みたいなところにせっかくだから行きたくって!智くん、どこかオススメある?」

「‥‥そうだな、チェコ国内だと、温泉保養地として有名なカルロヴィバリとか、ピルスナービールの発祥地のピルゼンとかかな。あと国境を越えるけど近場だと、クリスマスマーケットが有名なドイツのドレスデンもいいかもね」

桜庭さんの口から出てくる都市の名前は、すべて私にとっては聞いたことがないところだった。

つまり日本人に馴染みのない場所なのだろう。

それなら人目に神経を尖らせずに気兼ねなく楽しめそうだ。

「全部聞いたことない都市だけど、だからこそ興味あるかも!ヨーロッパは隣接してるから、せっかくだし色々行ってみたいな」

私は目を輝かせて、ヨーロッパの国々に思いを馳せた。

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