Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
#9. 婚約者(Side智行)
「桜庭さん、昨日街で見かけましたよ!一緒にいたあのきれいな女性は一体どなたですか!?」
休み明けに出勤すると、真っ先に後輩の渡瀬潤が興味津々で近寄ってきた。
渡瀬は僕より5年後輩で、子犬のように人懐っこい男である。
キャンキャン吠える子犬のように騒ぎ立てる渡瀬の声を聞いて、周囲の職員も何事かとこちらに注目していた。
この状況は想定内で、むしろ狙った通りに事が運び、心の中でほくそ笑んだ。
昨日環菜と外に出かけた時、環菜には予行練習とだけ言ったが、さらに言うとあの状況を身近な人に目撃させようと思っていたのだ。
そうすれば自分から婚約者がいることを広めなくても、誰かが勝手に言いふらすに違いないと踏んでいた。
目撃したのが渡瀬だったというのは、こういうふうに騒ぎ立ててくれるという点でラッキーだったといえる。
僕はいつも通りにニコリと笑うと、さも驚いたかのように渡瀬に答える。
「あぁ、見られてたんだ。恥ずかしいな」
「で、どなたなんですか!?」
「婚約者だよ」
「「「婚約者‥‥!?」」」
僕の言葉に、渡瀬だけでなく聞き耳を立てていた周囲の職員までもが驚きに声を上げた。
見事なハモリだった。
「桜庭さんって彼女いたんですか?いきなり婚約者って!一体どういうことですか!?」
渡瀬の質問に、周囲の職員までもが同じ疑問を持ったのか深く頷いている。
僕はその質問に環菜とあらかじめ練っておいた設定をツラツラと述べてみせる。
だんだん本当の話なのだと信じてきたのだろう、近くにいた女性職員は驚きとショックで若干涙目になってきている者もいるようだ。
(さぁこれであとは勝手に話が広がって女避けになるだろう。仲が良さそうだったと伝われば付け入る隙がないと思われるだろうし。あれだけそれっぽく振る舞ったし、目撃されていればそれも伝わるだろうしね)
すべてが狙い通りに進み、爽快な気分だった。
そして僕はふと昨日のことを思い出す。
昨日は環菜にプラハの主要観光名所を案内しながら婚約者の予行練習をしたのだが、1日環菜と過ごしてみて色々と彼女について発見があった。
まず、環菜は思った以上に鋭く、僕の笑顔の裏を読み取るのだ。
プラハを案内すると親切心っぽく申し出たのに、それに何か別の意図があると正確に感じ取っていた。
次に、環菜が意外にも負けず嫌いだということだ。
正直、あの癒し系の庇護欲そそる外見の印象からは想像もつかなかったが、なにかと僕と張り合おうとしていたし、上手く演じられなくて悔しさを滲ませていた。
不貞腐れる態度が可愛くて、思わず素で笑ってしまったくらいだった。
休み明けに出勤すると、真っ先に後輩の渡瀬潤が興味津々で近寄ってきた。
渡瀬は僕より5年後輩で、子犬のように人懐っこい男である。
キャンキャン吠える子犬のように騒ぎ立てる渡瀬の声を聞いて、周囲の職員も何事かとこちらに注目していた。
この状況は想定内で、むしろ狙った通りに事が運び、心の中でほくそ笑んだ。
昨日環菜と外に出かけた時、環菜には予行練習とだけ言ったが、さらに言うとあの状況を身近な人に目撃させようと思っていたのだ。
そうすれば自分から婚約者がいることを広めなくても、誰かが勝手に言いふらすに違いないと踏んでいた。
目撃したのが渡瀬だったというのは、こういうふうに騒ぎ立ててくれるという点でラッキーだったといえる。
僕はいつも通りにニコリと笑うと、さも驚いたかのように渡瀬に答える。
「あぁ、見られてたんだ。恥ずかしいな」
「で、どなたなんですか!?」
「婚約者だよ」
「「「婚約者‥‥!?」」」
僕の言葉に、渡瀬だけでなく聞き耳を立てていた周囲の職員までもが驚きに声を上げた。
見事なハモリだった。
「桜庭さんって彼女いたんですか?いきなり婚約者って!一体どういうことですか!?」
渡瀬の質問に、周囲の職員までもが同じ疑問を持ったのか深く頷いている。
僕はその質問に環菜とあらかじめ練っておいた設定をツラツラと述べてみせる。
だんだん本当の話なのだと信じてきたのだろう、近くにいた女性職員は驚きとショックで若干涙目になってきている者もいるようだ。
(さぁこれであとは勝手に話が広がって女避けになるだろう。仲が良さそうだったと伝われば付け入る隙がないと思われるだろうし。あれだけそれっぽく振る舞ったし、目撃されていればそれも伝わるだろうしね)
すべてが狙い通りに進み、爽快な気分だった。
そして僕はふと昨日のことを思い出す。
昨日は環菜にプラハの主要観光名所を案内しながら婚約者の予行練習をしたのだが、1日環菜と過ごしてみて色々と彼女について発見があった。
まず、環菜は思った以上に鋭く、僕の笑顔の裏を読み取るのだ。
プラハを案内すると親切心っぽく申し出たのに、それに何か別の意図があると正確に感じ取っていた。
次に、環菜が意外にも負けず嫌いだということだ。
正直、あの癒し系の庇護欲そそる外見の印象からは想像もつかなかったが、なにかと僕と張り合おうとしていたし、上手く演じられなくて悔しさを滲ませていた。
不貞腐れる態度が可愛くて、思わず素で笑ってしまったくらいだった。