Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「うん。日本食が恋しくなって、カタリーナに食材買えるところを聞いて、生姜焼きと白ご飯と味噌汁を作ってみたの。あ、夜ごはんってもう食べた?余りで良かったら食べる?実は作り過ぎちゃって」

思わぬ提案を受け、まだ食べていなかった僕は環菜の作った夕食をお裾分けしてもらうことになった。

「座ってていいよ。ちょっと待ってて」

環菜は僕をリビングに残したままキッチンへ行ってしまった。

コートとスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外しているタイミングで、夕食をプレートに乗せた環菜が戻ってきた。

「お口に合うか分かんないけど、こんなので良ければどうぞ」

そう差し出されたのは、思った以上にちゃんとした夕食だった。

環菜は僕が料理を食べて感想を言うのを待つでもなく、夕食を提供するとすぐにまた自分の食事を再開させてテレビに見入っていた。

(やっぱり僕に興味がないんだな環菜は。普通だったら手料理を食べてもらった反応を気にするだろうに。全くそんな素振りないもんな)

逆にここまで興味を持たれないと面白い。

ちょっと気を引きたくなって、僕はニッコリと笑いながら環菜にこう声をかけた。

「環菜が食べさせてよ」

「‥‥え?」

テレビから目を離し、聞き間違いかと疑うようにこちらを見た。

「婚約者のふりの練習ね。さぁどうぞ?」

「でもここ家の中だし、人に見せる必要もないよね?」

「だから練習だって。この前上手く演じられなくて悔しいって言ってでしょ」

「‥‥分かった!」

あの時の悔しさを思い出したのか、環菜はちょっと意地を張るように承諾の意を述べた。

やはり負けず嫌いなところがあるようだ。

お箸を手に取ると、生姜焼きを口に入るサイズに切って持ち上げ、僕の口元へと近づけてくる。

「はい、口開けて」

可愛らしさのかけらもない言い方であるが、照れて頬に赤みが差しているのが可愛かった。

素直に口を開けて生姜焼きを頬張ると、しっかりと味付けがされていて予想以上に美味しかった。

「も、もういいよね?あとは自分で食べてね!」

お箸を僕に押し付けると、プイッと横を向いてしまい、そんな仕草もなかなか可愛い。

(いちいち言動が新鮮なんだよなぁ環菜は。見た目からは想像もつかない意外性もあるし)

この料理の腕前も意外なことの一つだ。

「美味しいよ。環菜は料理もできるんだね。どこかで習ったの?」

「別に普通に生活の中で覚えたよ。必要だったからできるようになっただけ」

なんでもないことのように言われたが、それでも誰でもできることではないだろう。

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