Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「どうしたの?そんな物憂げな顔して」

「ん〜カップル見ていいなぁって思ってた」

「亜希がそんなこと言うなんて珍しい。恋愛は興味なかったんじゃないの?」

「そんなことないよ。縁がなかっただけ。演技の方が楽しかったから」

「事務所としては報告さえちゃんとしてくれればいいよ。スキャンダルだけは女優生命の命取りになるからこっちとしても把握したうえで戦略立てたいしね」

「うん、それは理解してる。もしそんなことがあったらちゃんと報告する。全く予定はないけど」

もう恋愛の仕方さえ忘れた私だから、当分そんなことはないだろう。

それにしても、「恋愛ってどんなのだっけ?」という状態の私が、世の中の人が憧れるようなラブストーリーを演じてるなんて、とんだ皮肉だ。

よっぽどそこらの大学生やOLさんの方が、素敵な恋をしているに違いない。

「皆川さんは彼女作らないの?ずいぶんいないよね?」

私が知る限り、皆川さんが私のマネージャーになる直前くらいには彼女がいたらしいが、ここ数年は話を聞かなかった。

「僕はいいよ。それより今は亜希をもっと有名にしたい。国民的女優になれる逸材だと思ってるから」

「皆川さん‥‥。ありがとう」

私の才能を見つけて、私に演技という世界を教えてくれた皆川さんには本当に感謝していた。

皆川さんのためにも、もっと良い女優になりたいと思う。


話しているといつの間にかマンションの駐車場に着いた。

私の住むマンションは、事務所が用意してくれたところで、24時間コンシェルジュがいるセキュリティが万全なところだ。

芸能人御用達のマンションとして有名だった。


「じゃあ明日は昼から雑誌のインタビューとCM撮影があるからまた迎えに来るね。ゆっくり休んで」

「ありがとう。おやすみなさい」

皆川さんに挨拶をして、住人専用の入口から中に入ってエレベーターに乗った。

家に着くと「ただいま」とつい癖で言ってしまったが、もちろん誰からの返事もない。

私はここに一人で住んでいるからだ。
< 5 / 169 >

この作品をシェア

pagetop