Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
疲れ果てて玄関で環菜がへなへなになっていたから、さっきまでのパーティーのように腰を抱いて支えると、その途端にビクッと身体を強ばらせる。

その瞳にはさっきのあの愛しい者を見るような色はない。

この変わりように、本当に僕に興味がないことを感じてなぜだか少し苛立ちを感じる。

それに、パーティーでの環菜は、あまりにも他の男の視線を集めていて、その時にも実はイライラしていたのだ。

男たちが情欲の目で舐めるように環菜を見るたびに隠してしまいたい衝動に駆られた。

それに帰り際には一人でいるところを男に声をかけられていたし。

思い出すとまた微かに苛立ちが蘇ってきた。

それを感じ取ったのか、玄関からリビングに向かっている途中、環菜が上目遣いでやや機嫌を伺うように僕を見てくる。

「なんか怒ってる?」

「いや、別に」

「もしかして私何か失敗しちゃった?」

「そんなことないよ。完璧だったよ」


僕はニコリと笑って誤魔化した。

今後に向けて反省会をしようと環菜が言い出し、僕たちはリビングでコーヒーを片手にソファーに座る。

演じることに対しての環菜の熱意はとても高く、向上心があるなと思う。

「それじゃあ、婚約者役として何か改善点があれば教えて?次から気をつけるから」

「本当に見事だったよ。特に改善点はないんじゃないかな」

「本当に?何もない?」

心配そうに真剣な目で確認してくる環菜を見て、僕はふと1つ改善点を思い出した。

ニッコリと極上の笑みを浮かべながら環菜を見据え、ゆっくりと口を開く。

「ああ、そういえば1つあった」

「え、なに?」

「環菜は僕のものだっていう自覚が薄すぎるんじゃないかな。他の男とも楽しそうに話してたし、相手の男は鼻の下伸ばしてたよ?」

「えっ、そんなつもりないんだけど‥‥!」

「帰る間際も口説かれてたじゃない」

「あれはそういうのじゃないってば!口説かれてないよ!」

そうは言うが、会話こそ聞こえなかったものの、あの欧米人の男は完全に環菜に興味を持っている目だった。

恋情とは違うようには見えたが、いずれにしても興味を持たれて近づかれていることに変わりはない。
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