Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
突然後ろに倒されて、環菜は驚きで目を丸くしている。

そんな環菜をニッコリ笑いながら見下ろし、そのまま覆い被さってキスをした。

「‥‥んっ!」

思わずといったように漏れた声に煽られ、ますます深く口づけ、舌を絡める。

環菜の唇の感触は驚くほど柔らかくて、誘われるように何度も貪ってしまう。

ピチャピチャと水音が静かな部屋に響き渡った。

事前リハーサルという名目でこの前キスした時も、まるで吸い寄せられるようにやめられなかった。

不思議なほど環菜とのキスは心地よく、もっともっとと求めてしまう。

環菜は僕が女慣れしていて誰にでもこういうことをしていると思ってるかもしれないが、そもそも自分の欲求で人に触れることはこれまでなかった。

恋人がいても、「こういうことを求めているんだろうな」と向こうの意図を汲み取って相手をしているという感じだった。

もちろん気が乗らない時は笑顔でスルーだ。

なのに、環菜には自分からつい触れたいと思ってしまい、なんだかんだ大義名分を作り上げてしまっている部分がある。

それはおそらく環菜の努力家の一面や、外見からは想像できない負けん気の強さ、いちいち可愛い反応などに惹かれているからだろう。

(都合が良い相手がいいと思っていたのに、僕の方がのめり込んでるじゃないか。こんなつもりじゃなかったのにな‥‥)

自分のことに興味を持たないだろう相手を選んだのに、興味を持たれないと腹立たしく感じるとは自分勝手にもほどがある。

策士策に溺れるってやつかもしれない。

「んんっ‥‥はぁ、んっ‥‥」

環菜の口から艶かし声が漏れ出し、これ以上すると止められなくなりそうで理性を働かせて唇を離した。

環菜の顔を見下ろすと、目をトロンとさせて放心している。

(やばいな‥‥。婚約者のふりを超えてしまってる自覚はあるけど、やめられない‥‥)


放心していた環菜はしばらくして正気を取り戻すと、僕を下から見上げながら問いかけてくる。

「‥‥これはどうって、こんなの改善案じゃないでしょ?どういう意味?」

僕は努めて平然としながら笑う。

「環菜は僕のものだって分かるように、毎回パーティーの後にこうやって僕にキスしてくれたら嬉しいなと思って。婚約者らしさも醸成できるし一石二鳥でしょ?」

「なんかこじつけの気がするんだけど‥‥」

疑う目を向けられるが、残念ながらいつものようにすぐ言い含める良いアイディアが浮かばなかった。

環菜は正しく、完全にこじつけなのだ。

ただ僕が環菜に触れたいし、キスしたいだけなのをそれっぽく理由付けしているだけだったのだからーー。
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