Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
帰り道にスーパーで食材を買い、家に帰って夕食を作っていると、智くんが帰ってきた。

今日も早く仕事を切り上げられたようだ。

「おかえり!」

「ただいま。何か機嫌良さそうだね」

どうやら私は料理をしながら無意識に鼻歌を歌っていたらしい。

分かりやすくルンルンしている私を智くんは珍しそうに眺めている。

「まだ夕食できてなくって。ちょっと待っててくれる?」

「全然平気だよ。何か手伝おうか?」

「大丈夫!あと数分で出来上がるから、リビングでゆっくりしてて」

智くんをキッチンから追い出すと、私は手際よく仕上げに入る。

今日のメニューはカルボナーラだ。

最後に半熟のたまごを乗せて完成である。

パスタ皿を2枚持ってリビングに行き、テーブルにセッティングした。

「いただきまーす!」

準備が整うと、2人で一緒に食べ始める。

「それでさっきは何で鼻歌を歌ってたの?何かいいことでもあった?」

ずっと気になっていたのか、食べ始めるやいなや、真っ先に智くんが尋ねてきた。

私も智くんには報告しておいた方がいいだろうと思っていたので、嬉々として話し出す。

「うん!智くんは最初に私を助けてくれた時のカフェって覚えてる?」

「覚えてるよ。あのクロワッサンの美味しいお店だよね」

「そうそう!実はね、あそこで働くことになったの!今日行った時にたまたま店内でスタッフ募集中のチラシを見て、ダメもとでお願いしてみたら、そのまま面接になってね。で、ぜひ働いて欲しいって言ってもらえたの!」

満面の笑みの私を眩しそうに見ると、智くんも嬉しそうにニコリと笑った。

「良かったね。あのカフェはたまに行くけど、チェコ人以外が働いてるところは見たことない気がするし、すごいと思うよ」

「そうなんだ。智くんのおかげでチェコ語も少しできるようになったから、それも良かったみたい!」

「チェコ語もチェックされたの?」

「うん、少しだけね。あとは基本的に英語だったけど。あと、たぶん私が過去にカフェで働いた経験があったのも大きかったみたい」

あの時の面接のことを思い出しながら話すと、私の職歴に興味を持ったのか、智くんはその部分について聞いてきた。

「カフェで働いてたの?」

「うん。といっても大学生の時にアルバイトとしてだけどね」

「あぁなるほど。でも経験があるのは大きいだろうね。日本と違って海外は経験を重視する社会だから」

「それはそうだね。以前カナダに住んだことがあるんだけど、その時もカフェでのアルバイトの面接で日本でカフェ勤務経験があるって言ったら受かったし」

「環菜はカナダにも住んでたの?だから英語ができるんだね」

「大学生の頃に1年間だけね。その時に出会ったのがカタリーナなの」

「どういう繋がりかと思ってたけど、そういうことか」
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