Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
話していると、智くんが初めて知ったという表情をすることが多かったので、実はほとんど自分のことを彼に話していなかったことに気づく。

神奈月亜希のことを知られるのが怖くて、できるだけ過去の話に触れないようにしていたせいだった。

今日はアルバイトが決まったことが嬉しくて、ついつい饒舌になっていたようだ。

「そういえば、前に環菜が料理ができるのは必要だったからできるようになっただけって言ってたけど、あれはどういうこと?カナダ生活で覚えたとかそういうこと?」

話の流れで聞かれて、家庭環境の話をするかどうか迷ったけど、これは神奈月亜希に繋がる話じゃないから大丈夫かなと判断して話すことにした。

「私、両親が幼い頃に事故で他界してて、祖父母に育てられたの。その祖父母も昨年2人とも亡くなっちゃったけどね。それで、祖母が私が1人になった時に困らないようにって、幼い頃から料理を仕込んでくれたの」

可哀想な子と同情されたくなくて、私は努めて明るく話した。

「そうなんだ。それじゃあ僕は環菜のお祖母さんに感謝しなきゃね。今こうして美味しい料理を食べさせてもらってるから」

「ふふっ。きっとお祖母ちゃん、自分の仕込みが上手くいったって天国で鼻高々だよ」

「両親がいないことで大変なことも多かったの?」

「そうでもないよ?まぁ小学生の頃とかはバカにしてくる子もいたけど、やり返したもん!智くんはお父さんが外交官って言ってたけど、今はご両親はどこにいるの?」

「今は確かベルギーだったかな。そこで大使やってるよ」

「すごいね!兄弟とかはいないの?」

「2つ下の弟がいる。弟は日本の食品メーカーで海外営業をしてるよ」

「ご家族みんなが海外に携わってるんだね」


私のアルバイトの話をきっかけに、食事の間私たちは珍しくお互いの家族のことや学生時代のことなどを話題に会話をした。

智くんの新しい一面をまた知れたようで、私はなんだか嬉しかった。
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