Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
しばらく無言で抱きしめ合っていると、環菜が沈黙を破り、ポツリと小さくつぶやいた。

「‥‥智くん、お願いがあるんだけど」

「なに?」

「今日一緒に寝てくれる?こうやって一晩抱きしめていてほしい‥‥」

予想外のお願いをされて驚いた。

いつもはむしろ僕から離れようとするくせに、自分から一緒に寝たいと言ってくるとは。

それだけ心が弱っている証拠だろう。

環菜の方からお願いしてくること自体が稀なのでぜひ応えたいと思い了承する。

ただ、のちに知ることになるのだが、このお願いはとんでもない拷問だったのだーー。



シャワーを浴び終わって部屋着になった環菜が部屋を訪ねて来た。

まず目を奪われたのは、環菜の白いほっそりとした生足だ。

8月になって暑い日が続いていることもあり、かなり薄着で寝ているのだろう。

Tシャツにショートパンツという格好だ。

さらにシャワーを浴びた後ということもあり、化粧を落とした素顔の顔はいつもよりあどけなく、頬は上気するように赤みが差している。

それだけでも悩ましいのに、ベッドに入ると、環菜の方からぴったりと僕にくっついてきたのだ。

ちょっとの隙間も空けたくないと言わんばかりに密着され、薄着だということもあり、身体の柔らかさがダイレクトに伝わる。

疲れていたのか環菜は安心するかのようにすぐに眠ってしまったが、逆に僕は目が冴えてくる。

正直、この状態で手を出せないというのは、理性を試されているようなものだ。

(やばいな‥‥。これはとんでもない拷問だ‥‥。手を出したいのに出せないっていう状況の経験が今までなかっただけに、それがこんなにキツイとは思わなかった)

これは今夜寝れないかもなと思っていると、寝ていたはずの環菜が急に震え出した。

悪夢を見ているのか苦しそうに喘いでいる。

それを振り払うように、さらに強く抱きしめられ、僕の胸に寄せた顔をグリグリと押しつけてくる。

「‥‥!」

(環菜はもしかしたら拷問の天才かもしれない。キツイなこれ‥‥)

そのあとも、ちょっと身体を離そうと動けば、逃さないとばかりに無意識にくっついてくる。

なんとも悩ましいため息が何度となくこぼれ落ちた。

結局、朝方まで眠れず、日が昇る頃に一瞬寝れたかと思ったらアラームに起こされて出勤するはめになった。
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