Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「この前、桜庭さん寝不足で出勤してましたよ。夜も盛り上がってるようで、本当におふたりは仲が良いですね。ラブラブで羨ましい限りですよ。僕も彼女欲しいなぁ〜」

そう言われ、一瞬何のことかと思ったが、彼が言わんとすることが分かり顔が赤くなる。

大人同士の婚約者だったらまぁ当然のことだから、婚約者役としては否定することもできない。

智くんが寝不足だったのは、本でも読んで夜更かししたとかの理由だろうと思う。

女性に対してデリカシーのない発言だと思うのだが、渡瀬さんも海外経験が長いから、こうも明け透けなのだろう。

海外の人は夜の事情もオープンに話す人は結構多い。

「うわ!顔赤くしちゃって可愛いですね。桜庭さんはこんな婚約者がいるなんて本当にズルイです」

「いえ、そんなことは‥‥!」

「今日の眼鏡姿も似合ってますよ。そういえば、最近お店に変な人が来たりします?何か変わったことはないですか?」

一瞬、あの2人組ことが頭をよぎるが、あの人達は一般的には別に変な人でもなんでもない。

「いえ、特にはないと思いますけど。何か懸念があるんですか?」

「いえいえ、なければいいんですよ!観光シーズンで人も多いですから、知らない人には気をつけてくださいね!」

「分かりました。ご忠告ありがとうございます」

大使館職員としてのアドバイスだろう。

そういえば初めて智くんに会った時にも、こんなふうに注意を受けたなと思い出す。

大使館の人たちの習性なのかもしれないなと思った。



その数日後には、智くんがお店にやってきた。

初めて会ったのもここだったし、クロワッサンがお気に入りで以前はたまに来ていたらしい。

私がアルバイトをするようになってパンを買って帰ることが多くなったから、最近は智くんがお店に来ることはなかった。

だからなんだかお店で会うのは珍しく感じる。

「珍しいね!クロワッサン買いに来たの?」

「環菜の眼鏡姿を見に来たんだよ」

「え?」

どうやら先日来た渡瀬さんから聞いたらしい。

家で眼鏡をかけているところを見たことがなかったから興味があって来てみたそうだ。

「なんで仕事中だけ眼鏡かけてるの?家ではかけてないよね」

「あ〜うん、何か気分かな?仕事とプライベートを切り替えるみたいな!」

「前は仕事中もしてなかったのに?」

変装してますとは言えず、苦し紛れにそれっぽい理由をでっちあげてみる。

なのに、そんなのお見通しと言わんばかりに、王子様スマイルを浮かべて鋭く言い返された。
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