Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「そんなの理解できないわ。だって私と智行さんは運命なんですもの!父もそう認めてくれているんです」

「そうですか。ではお父様はこれを聞いたら何とおっしゃるでしょうね?」

圧を感じるニッコリとした笑顔をした智くんは、スーツのポケットからスマホを取り出して何かの操作をしている。

するとスマホから日本語の音声が響き出した。

それは男女の会話のようだが、隠し取りされたのか雑音が少し混じっている。


ーー邪魔な女がいるから、どうにかして欲しいの。ハオランの好きなか弱そうな感じの日本人の女よ。
ーー処女?
ーー知らないけど違うと思うわ。でも間違いなくハオランのタイプよ。好きにすればいいわ。
ーーへぇ。面白そうだな。俺の好きに調教してしまえばいいか。
ーーええ、二度と私の運命の人に近づけないように薬漬けにでもしちゃってよ。
ーーあの薬使うと女は俺から離れられなくなるらしいしな。
ーーうふふっ。楽しみだわ。もちろん上手くやってくれれば報酬は弾むから。あと、ハオランのお父様の会社に事業提携するように父にも口利きしてあげるわね。
ーーそれは助かる。交渉成立だな。


この男女の声は、今目の前にいるこの2人だろう。

(なにこの会話‥‥!私、薬漬けにされそうになってたってこと‥‥!?)

無意識に身体が強張っていく。

そんな私の様子に気づいたのか、智くんは安心させるように私を抱きしめる腕に力を込めた。

「な、な、なんですか!これ!」

2人は信じられないというふうに、目を大きく見開いて、明らかに焦りの表情が浮かんでいる。

「お聞きの通り、これは立派な強姦計画ですよね。それに違法薬物の存在まで告白しています。これが世に出たら、あなたはどうなるでしょうね?お父様はなんておっしゃるでしょうね?」

話の物騒さとは真逆のにこやかな笑顔の智くんが言い募る。

さらに渡瀬さんも追撃するように言葉を重ねた。

「ちなみに音声データは今のだけじゃないですよ。具体的な計画を練ってる時のものもバッチリありますんで!」

「たとえ警察が相手にしなくても、弁護士に持ち込むなり、マスコミに持ち込むなりできますしね。大企業の重役の娘のネタなんて週刊誌は大喜びでしょう。ハオランさんは過去にも犯行があるみたいですし実刑でしょうね」

とどめを刺すような智くんの言葉に、2人は何も言えなくなってしまい、呆然としている。
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