Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
「それは薬を盛られて寝てしまい、ホテルに連れ込まれて写真を意図的に撮られた可能性はあるかもね」

「そんな‥‥!でもじゃあなんで家に!?」

皆川さんは顎に手を当てて少し考えながら、ありうる可能性を述べる。

「そうだな、例えば同じマンションの住人だったらコンシェルジュのいる入口は問題なく入れるだろう。2人とも住人なんだし、酔っ払ったから介抱しているとでも言えば信じるだろうし」

「‥‥!」

「あとは意識のない亜希の鞄から鍵を見つければ、家の中にも入れる」

そんなことが可能なのだろうか。

知らない間にそんなことをされていた可能性を考えると寒気がした。

私は恐怖でガタガタと震え始める。

「状況は分かった。亜希に心当たりがない以上、皆川の言う可能性が高いだろう。だが、写真が本人である以上、文秋を止めることはできない。事務所としてももう手は回せない」

「そんな‥‥」

「あと亜希には覚悟しておいて欲しい。こうなった以上、清純派で売ってたお前のイメージは失落する。今入ってる仕事はすべて流れるだろう。お前の女優生命はかなり厳しい。これ以降は俺も皆川も謝罪行脚することになる」

真剣な眼差しで話す社長の言葉は、一言一言が重く、私を突き刺すようだった。

この先の女優生命すら危ぶまれる状況に目の前が真っ暗になる。

「CMスポンサーやテレビ局からは違約金も請求されるだろう。ただ、今回のことはお前の脇が甘かったとはいえ、お前も被害者で同情の余地があると俺は考えている。だから、お前が今まで稼いで事務所に貢献した金でやりくりして、お前個人には賠償を求めない方向で調整しようと思う。事務所がお前のためにできるのはここまでだ」

経営者でもある社長は他のタレントや社員を守るためにシビアな判断をしなければならない。

そんな社長の精一杯の温情なのだろう。

「社長‥‥お心遣いありがとうございます」

「たぶんお前への風当たりは相当になるはずだ。今日から一切外に出るな、外部とも連絡を取るな。いいな?」

「はい‥‥」

昨日の今頃には全く想像もしなかった事態に私はただただ動揺して呆然とするしかなかった。
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