Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
『先日はお会いできて良かったです。環菜と本当に仲が良くて目の保養になる美男美女カップルでしたよ』

『それはどうもありがとうございます。ところで、ちょっとカタリーナさんに環菜のことで聞きたいことがあるんです』

『環菜のこと?何ですか?』

『環菜がプラハに来た理由をご存知ですか?もちろん僕のために来てくれたのもあると思うんですけど、環菜が「私を呼び寄せた張本人」とカタリーナさんのこと言ってましたし』

婚約者役の設定上、憧れの人を追いかけて来たことになっているので、聞き方に留意しながら尋ねる。

特に不審に思うことはなかったのか、カタリーナさんは「ああ」と相槌をうつと話し始めた。

『確かに私がプラハに来たら?と声をかけました。それは環菜が「辛い、心が折れそうだ、もう終わりだ、何もかもに疲れた‥‥」って言いながら絶望したような顔をしてたから逃げておいでって提案したんです。でもその詳しい理由は知らなくて。だから今は智行さんと結ばれて幸せそうで本当に良かったなって思ってます!』

そんなことがあったのかと、思わぬ話に先日の環菜の姿が目に浮かび胸が痛んだ。

おそらくプラハに来る前もあんなふうに1人で震えて耐えていたのだろう。

でも一体なにがあったのだろうか。

『ちなみにカタリーナさんは、日本にいる頃の環菜のこと何か知っていますか?僕が聞いても恥ずかしがって。ぜひ知らない一面も知りたいんですけどね』

婚約者の僕が知らないのは不自然だろうと思い、ワザとちょっと拗ねるような口調で話す。

『ふふふっ。確かに環菜はそうやって恥ずかしがるところありますもんね。でも残念ながら私も智行さんに教えてあげられるほど分からないわ。大学生の頃の話ならいっぱいできるんだけど』

どうやら2人はカナダで留学生活を共に過ごした後は、細々と繋がっていただけのようで、絆は強いものの細かいことは知らないようだった。

『いつもとても忙しそうな感じではありましたね。連絡を取る時は、自分の近況はあまり話せないのか、私の話や共通の友人の話、あとは世間話ばかりだったわ』

カタリーナさんからもこれ以上は聞き出せそうになく、僕は礼を言って電話を切った。

結局、肝心なことは一向にわからないままだった。
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