Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
家での環菜はいつも通りの笑顔を向けてくるもののよそよそしい感じの態度が続いていた。

眼鏡姿を見かけることもない。

以前は家でも僕からスキンシップをしていたのだが、最近は環菜に触れることを躊躇してしまっていた。

触れたいと思う一方で、簡単に触れてはいけない気がしてしまうのだ。

それは環菜を特別な女性だと認識して意識してしまっているからだろうと思う。

あの抱きしめて一緒に眠った日、僕は環菜に対して初めて感じる感情を持ったし、もう手放せない、いや手放したくないと思った。

このまま婚約者役ではなく、本当に婚約者としてそばにいて欲しいといつの間にかそう望んでいるのだ。

だから、環菜が婚約者役であることを強調してくると、彼女はただ自分の役目を全うしてるだけで何も悪くないと分かっているのに、失望するのを止められなかった。

自分に好意を持たない相手を選んでおきながら自分勝手なのは重々承知しているのだが。


自分の部屋ではぁとため息をついた時、ちょうど電話が鳴り出した。

三上さんを探ってもらっている知り合いからだった。

何か分かったのかとすぐに電話に応じる。

「桜庭さん、当たりでしたよ」

「ということは‥‥」

「ええ、悪巧みしてました。たぶん桜庭さんの婚約者を狙ったことだと思いますよ」

「証拠はどうですか?」

「今それを準備しています。まずは一報です。詳細がもう少し分かり次第また連絡入れるんで」

「よろしくお願いします」


電話を切ると、このことを環菜に事前に知らせるかどうかで悩んだ。

知っていれば今よりも警戒ができるだろうが、闇雲に怖がらせるのは避けたい。

ただでさえ、つい先日あんなに怯えて震えるようなことがあったばかりなのだ。

環菜に被害が及ぶ前に僕が阻止すればいいのだから、今は知らせるべきではないだろう。

そう判断して、環菜には伝えずにいることにした。

環菜をあんな弱った姿にさせないように、僕が守らなければと思った。
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