Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜
それから数日後、一度仕事中の環菜の様子を確認しておこうとカフェに訪れた。

念のため店内をぐるりと見渡してみるが、三上さんの姿も、怪しい男の姿もなく、ホッとする。

渡瀬の言っていたとおり、少しタレ目がちな大きな瞳を隠すかのように環菜は眼鏡をかけていた。

それだけでおっとり癒し系な外見が少し違って見える。

眼鏡をかけている理由を問えば、トンチンカンな答えが返ってきて、明らかに何かおかしかった。

本当に言動が不可解だと首を捻りながら店を出ると、ちょうど電話がかかってきた。

あの探偵業の知り合いからだった。

「やっと証拠が得られました。これ聞いてください」

そう言うと、耳元からは盗聴したのであろう音声データが聞こえてくる。

そのあまりの内容と自分勝手さに怒りが湧き上がってきた。

「この企みいつ決行されるか分かります?」

「そこが聞き取れなかったんですよ。今見失ってしまったんで探してるところです。そんなに早々には動かないだろうとは思いますけど。また連絡します」

これで三上さんが何をしようとしているのかはハッキリした。

環菜を強姦させて薬漬けにしようとするなんて許せることではない。

二度と刃向かってこないように徹底的に恐怖に陥れてやりたいところだ。

具体的な計画日が分からずまだ動くことができない僕は、そのまま大使館に戻り夜まで仕事に勤しんだ。

20時半を過ぎた頃、突然電話が鳴り、相手は探偵業の知り合いからだ。

電話に出ると焦ったような声色をしている。

「桜庭さん、大変です!あいつら、今日あの企みを実行に移すみたいです。まさかこんなに早いとは」

「彼らは今どこに?」

「それがまた見失いまして、今必死で探しています。とりあえず桜庭さんには婚約者さんの近くに向かってもらった方がいいかもしれません」

「わかりました」

ちょうど仕事もひと段落ついたところだった。

急いで荷物をまとめると、まだ勤務中であろうカフェに向かい始める。

するとまた電話が鳴り出した。

「もしもし」

「渡瀬です。桜庭さん、今日って環菜さん勤務日ですか?まだ働いてます?」

午後はずっと外出していた渡瀬からだった。

渡瀬の声色もいつもの能天気な声とは違う、緊迫した空気がある。

「まだ働いてるはずだけど」

「やっぱり!実は今、この前話した三上さんと怪しい男を見かけて、それがあのカフェの方向だったから何か胸騒ぎがしたんですよ!」

そこで僕は探偵業の知り合いから得た情報を渡瀬に伝え、自分も今向かってることを話した。

渡瀬は驚愕すると、「桜庭さんが来るまで尾行して見張っておきます!」と語気を強めて協力を申し出てくれた。
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